熱海の海岸沿いにある熱海サンビーチ横、お宮緑地に設置された像。2代目「お宮の松」とともに熱海の観光名所の一つ。尾崎紅葉が読売新聞に明治30年1月1日〜明治35年5月11日まで連載した長編小説『金色夜叉』で、主人公・間貫一(はざまかんいち)の許婚(いいなづけ)のお宮(鴫沢宮/しぎさわみや)の名シーンの像です。
貫一がお宮を下駄で蹴り飛ばす場面が銅像に
「貫一お宮の像」は、熱海ロータリークラブが創立30周年の記念に、『尾崎紅葉祭』当日の昭和61年1月17日熱海市に贈られたもの。
制作したのは館野弘青(たてのこうせい/大正5年~平成17年)。
北村西望に師事した館野氏ですが、熱海にアトリエを構えていた縁から熱海ロータリークラブが制作を依頼したというワケです。
館野氏は、昭和39年、熱海駅構内に置かれた東海道新幹線開業記念像「飛躍」像も制作。
熱海とは縁の深い芸術家です(温泉街のレトロな「純喫茶田園」のモニュメントもあるので、お見逃しなく!)。
「貫一お宮の像」は、結婚を間近にして、お宮は富豪・富山唯継のところへ嫁ぐ。それに激怒した貫一は、熱海で宮を問い詰め、お宮を貫一が蹴り飛ばす(前編第8章)シーンです。
貫一の映画(戦前は映画化だけで23本)や戦後のテレビドラマで「来年の今月今夜のこの月を僕の涙で曇らせてみせる」という名セリフがたびたび上映、放送されて当時の観光スポットになり、「お宮の松」ももともとは「羽衣の松」と呼ばれていましたが、昭和9年頃から「お宮の松」に。
映画とともにヴァイオリン演歌『新金色夜叉』が大ヒット。
「熱海の海岸散歩する 貫一お宮の二人連れ 共に歩むも今日限り 共に語るも今日限り」
と切ないロマンスの歌は、当時の若者の共感をよんだのです。
追いかけて許しを乞うお宮を貫一が下駄で蹴り飛ばす場面が銅像ですが、この銅像、実は制作段階から物議をよんだのだとか。
制作者の館野弘青氏も『金色夜叉』の像という依頼に、まずこの「下駄で蹴り飛ばす」シーンが浮かび、構図を発表。
昭和60年代初頭でも当然、各方面から「女性蔑視」という抗議の声が起こったとのこと。
館野氏も批判は受けましたが、「原作を曲げるわけもいかず、お宮の乱れた裾は止め、表情も和らげた作品にした」(熱海市)とのこと。
下駄は舞台での演出で、原作の挿絵は 靴を履いていますから、この像は舞台などをイメージしています。
昭和39年の東京オリンピックで温泉街として発展した熱海温泉街ですが、2回目の東京オリンピックでの国際化を意識して、熱海市では日本語と英語で、「物語を忠実に再現したもので、決して暴力を肯定したり助長するものではありません」という注釈を付け加えています。
『金色夜叉』熱海での場面(前編第8章)
「吁(ああ)、宮(みい)さんかうして二人が一処に居るのも今夜ぎりだ。お前が僕の介抱をしてくれるのも今夜ぎり、僕がお前に物を言ふのも今夜ぎりだよ。一月の十七日、宮さん、善く覚えてお置き。来年の今月今夜は、貫一は何処(どこ)でこの月を見るのだか! 再来年(さらいねん)の今月今夜……十年後(のち)の今月今夜……一生を通して僕は今月今夜を忘れん、忘れるものか、死んでも僕は忘れんよ! 可いか、宮さん、一月の十七日だ。来年の今月今夜になつたならば、僕の涙で必ず月は曇らして見せるから、月が……月が……月が……曇つたらば、宮さん、貫一は何処かでお前を恨んで、今夜のやうに泣いてゐると思つてくれ」
ヴァイオリン演歌 『新金色夜叉』
作詞:宮島郁芳
作曲:後藤紫雲
1.熱海の海岸を散歩する 貫一お宮の二人連れ 共に歩むも今日限り 共に語るも今日限り
2.僕が学校おわるまで 何故(なぜ)に宮さん待たなんだ 夫に不足が出来たのか さもなきゃお金が欲しいのか
3.夫に不足はないけれど あなたを洋行さすがため 父母の教えに従って 富山一家に嫁(かしず)かん
4.何故(いか)に宮さん貫一は これでも一個の男子なり 理想の妻を金に替え 洋行するよな僕じゃない
5.宮さん必ず来年の 今月今夜の此の月は 僕の涙で曇らして 見せるよ男子の意気地から
6.ダイヤモンドに目がくれて 乗ってはならぬ玉の輿 人は身持ちが第一よ お金はこの世のまわり物
7.恋に破れし貫一は すがるお宮を突き放し 無念の涙はらはらと 残る渚に月淋し
貫一お宮の像 | |
名称 | 貫一お宮の像/かんいちおみやのぞう |
所在地 | 静岡県熱海市東海岸町 |
関連HP | 熱海市観光協会公式ホームページ |
電車・バスで | JR熱海駅から徒歩15分 |
ドライブで | 西湘バイパス石橋ICから約18km |
駐車場 | 市営東駐車場(320台/有料) |
問い合わせ | 熱海市都市整備課公園緑地室 TEL:0557-86-6218 |
掲載の内容は取材時のものです、最新の情報をご確認の上、おでかけ下さい。 |
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