世界自然遺産に登録される知床を旅する前に、まずは「世界遺産登録の理由」を知っておこう。 というのも、旅行代理店のパンフや、旅行ガイドブックの知床紹介には、 「素晴らしい自然の知床は、世界遺産にも登録されています」 なんて美辞麗句が並んでいますから。 この言葉のどこにウソがあるのか、検証していきましょう。
旅行会社のパンフにはウソがある?
旅行会社のパンフレットや旅行書を見ると「世界遺産に指定された知床の雄大な景観」というようなフレーズが並んでいます。
これを真に受けると、知床をドライブする際に、「名所景観めぐり」という落とし穴にはまってしまう可能性すらあるのです。
実は美しい自然が自慢の知床ですが、世界自然遺産の登録にあたっての審査では、景観での登録は「×」。
つまり、知床の景観は世界レベルに当てはめるとさほどではないということ。
この「景観」では却下されているという前提を無視することは、世界自然遺産である本質を見逃すことにもなりうるのです。
知床が世界自然遺産に登録された理由は、
流氷が押し寄せる北半球でもっとも南の海域に位置し、流氷がダイナミックな生態系をもたらしているからという点。
KEYWORDは「アイスアルジー」
北の海から押し寄せる流氷は、栄養に富んだアムール川などの川の淡水を含んでいます(ですので塩分濃度が薄い)。
初春に知床半島と国後島に挟まれた巨大なプールのような根室海峡に流氷はやって来るのですが、この流氷の中に封じ込められた植物性のプランクトンが、「アイスアルジー」。
プランクトンとは水の中の浮遊生物のことをいいます。アイスアルジーとは、もともとは植物プランクトンで、海中に浮遊している状態ではなく、氷の中や表面に付着している珪藻類等のこと(海中に浮遊している場合は、プランクトンと呼ばれます)。
知床の流氷を起点とする生態系は、この「アイスアルジー」がもたらすものなのです。
春に流氷到達の南限という根室海峡の日差しを受けて氷が融けると、流氷に封じ込められていたアイスアルジーは根室海峡に放たれ、植物プランクトンの種がまかれたような状態になります。
冬に利用されなかった栄養塩を一気に消費し、植物プランクトンは爆発的に繁殖するのです。
流氷の底面で植物性のプランクトンが増殖、それを求めて今度は動物プランクトンが大増殖。この動物プランクトンを求めて鮭が川を下り、イカが集まり、マッコウクジラをはじめとする鯨類が回遊し、遠く南半球のタスマニアからはハシボソミズナギドリの大群が到来するのです。そういった「流氷を起点とした世界唯一の海洋生態系」である点が、知床が世界的な自然遺産と評価された理由なのです。
実は5月頃に羅臼を訪れれば、港の岩壁でクリオネ釣りができるほど、流氷の天使と呼ばれるクリオネも根室海峡ではごく平凡な生物です。クリオネも流氷がもたらす海生生物(ハダカカメガイ/裸亀貝)の一種です。
もう一度復習を
環境省が知床の世界遺産登録に向けての提出した推薦書には、
「海氷がもたらす栄養分によってアイス・アルジー(氷りに付着した藻類)などの植物プランクトンが大量に増殖し、それを出発点とする食物連鎖は海-川-森の各生態系にわたるダイナミックな食物連鎖網を形成している。季節流氷域としては世界でもっとも低緯度に位置する知床半島ではアイス・アルジーの大増殖や融氷にともなう植物プランクトンの大増殖が周辺海域に先がけて起こり、これが海生生物の餌条件や生活史の一部を支えている。融氷期の豊富な餌資源を利用して育ったサケ・マス類などの魚類はシマフクロウ、オオワシ、オジロワシなどの希少鳥類やヒグマの重要な餌資源として陸上生態系を支えている。また海岸線から1600mの山頂部までの間には、人手の入っていない多様な植生が連続して存在しており、豊富な餌資源と多様な環境を背景としてヒグマは世界的にも高密度で生息している」
と記されています。
環境省を含め、当然、自然景観も強くプッシュしたわけですが、残念ながら認められませんでした。 では、そんな世界自然遺産をどう、上手にプランに取り込めばいいのでしょうか?
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