昭和4年12月、國民新聞(徳富蘇峰が創刊、東京新聞の前身)が実施した読者投票による温泉の選定が、『全国温泉十六佳選』。もともと國民新聞は平民主義の立場でしたが、徐々に国家主義的な傾向を強めていきましたが、日本の良さを見直す動きの中で行なわれたのが、『全国温泉十六佳選』です。
戦前の旅行、温泉ブームという世相が背景に

毎日新聞の前身となる東京日日新聞と、大阪日日新聞が昭和2年、「昭和の新時代を代表する勝景を新しい好尚によって選定」するとして読者投票で『日本新八景』を呼びかけ、国はもちろん、自治体や観光地を上げての大ブームとなったことに刺激を受けたもの。
当時の日本は、国立公園制定への機運が高まり、同時に鉄道省(後の国鉄、現・JRグループ)も需要の喚起、観光推進に力を入れていました。
なぜなら、昭和5年の鉄道省調査で、50km以内の旅客輸送の12%が民営自動車(バスなど)に奪われていたからです。
こうした官民一致の思惑、そして世相を反映して『日本新八景』は大いに盛り上がったのです。
そんな状況を受け、國民新聞は、『日本新八景』のなかでも投票の多かった温泉部門を独立させ、『全国温泉十六佳選』の投票を実施したのです。
わが日本には四百数十の温泉があり、おのおの特色を有してはゐますが、泉質、風景、設備、交通、その他に於て最も傑出しているのはいずれでありませうか。本社は全国民の公選により『全国温泉十六佳選』を行ひ、古来有名なものは勿論、未だ世間に知られざる霊泉良湯を求めて十六ケ所の権威を公定し、廣く天下に公開することとしました。
上記が國民新聞に掲載された告知文。
温泉というものの、冷鉱泉は除くとしているので、効能第一主義というわけではなかったようです。
『日本新八景』の投票結果とも異なる

昭和5年における全国の延べ入浴者数は1993万1865人(内務省の調査)。
鉄道省は大正9年に全国の温泉地を網羅したガイドブック『温泉案内』を刊行、好評のため改訂を続けていました(当時の旅行手段はほぼ鉄道でした)。
当時だけでなく、行楽的な利用も増大しつつあったのです。
『日本新八景』温泉部門の1位は、集団投票のあった花巻温泉(岩手県)で、21万2048票、2位・熱海温泉(静岡県)103万8287票、3位・山中温泉(石川県)90万7862票の順でしたが、『全国温泉十六佳選』では花巻温泉は2位(86万7862票)、熱海温泉は12位(25万6372票)という結果に。
実は『日本新八景』で3位の山中温泉は、『全国温泉十六佳選』ではわずか1014票なので、いかに地元観光協会などによる集団投票が多かったのかがよくわかります。
『全国温泉十六佳選』一覧
投票結果を見ても、一軒宿を含め、意外な温泉地が入選しるので、温泉地の熱意、あるいは常連や推し活する有力者たちの熱気が伝わってきます。
有馬温泉、草津温泉など名湯が含まれていないのは、集団投票に冷ややかだったからなのでしょう。
| 順位 | 温泉地名 | 都道府県名 | 得票数 | 旅館数 |
| 1位 | 箱根温泉 | 神奈川県 | 120万4378票 | 34軒 |
| 2位 | 花巻温泉 | 岩手県 | 86万7862票 | 4軒 |
| 3位 | 下部温泉 | 山梨県 | 75万2587票 | 5軒 |
| 4位 | 日光湯元温泉 | 栃木県 | 37万6495票 | 7軒 |
| 5位 | 瀬波温泉 | 新潟県 | 30万9863票 | 11軒 |
| 6位 | 吉奈温泉 | 静岡県 | 29万5616票 | 2軒 |
| 7位 | 老神温泉 | 群馬県 | 28万9833票 | 4軒 |
| 8位 | 小谷温泉 | 長野県 | 27万8356票 | 4軒 |
| 9位 | 鬼怒川温泉 | 栃木県 | 27万3870票 | 5軒 |
| 10位 | 伊豆長岡温泉 | 静岡県 | 27万1378票 | 11軒 |
| 11位 | 玉造温泉 | 島根県 | 26万8182票 | 4軒 |
| 12位 | 熱海温泉 | 静岡県 | 25万6372票 | 28軒 |
| 13位 | 二股ラヂオ | 北海道 | 23万8114票 | 1軒 |
| 14位 | 大室(上牧)温泉 | 群馬県 | 23万4903票 | 1軒 |
| 15位 | 温海温泉 | 秋田県 | 21万9171票 | 23軒 |
| 16位 | 川原湯温泉 | 群馬県 | 21万7789票 | 5軒 |
| 『全国温泉十六佳選』とは!? | |
| 掲載の内容は取材時のものです。最新の情報をご確認の上、おでかけ下さい。 |












