滋賀県米原市梅ヶ原、滋賀県内唯一の新幹線停車駅である米原駅近くの鉄道総合技術研究所風洞技術センターに併設されるのが、新幹線高速試験車両保存場。ここに静態保存される車両が、WIN350です。JR西日本が飛行機に負けないよう、350km/hの運転を実現するために製造した高速試験電車です。
実験車両ではなく、新幹線で例のない試作車として登場
正式名は新幹線500系900番台電車ですが、その愛称がWIN350。
WIN350は、最高速度350km/hでの営業運転に必要なデータを収集するために開発された6両編成の高速試験電車で、その愛称は、West Japan Railway’s Innovation for the operation at 350km/hの略ですが、350km/h走行を実現し、ライバルの飛行機に勝つ(WIN)という意味も込められていると推測できます。
関西と九州を結ぶ山陽新幹線は、熾烈な航空機との戦いにさらされてきました。
最大のライバルが福岡空港と、北九州空港。
とくに福岡空港は立地もよく、地下鉄(地下鉄空港線)なら5分で博多駅ということから、関西国際空港、伊丹空港からのフライト時間(関空1時間15分、伊丹1時間5分程度)、関空・伊丹への移動時間を合わせても山陽新幹線と遜色なく、スピードアップが大きな課題となっていました。
分割民営化でJR西日本が誕生した時の、山陽新幹線の最高速度は220km/h。
新大阪~博多間の所要時間は最短でも2時間59分と、飛行機との戦いにはかなり不利な状況でした。
国鉄時代は、国鉄のドル箱でもあった新幹線を保護するため、国が大阪~福岡の航空便の本数を制限していましたが、分割民営化後は、航空機の増便とともに、飛行機VS山陽新幹線の熾烈な戦いがスタートしたのです。
そんな中、1989年3月に登場の100系「グランドひかり」は、最高時速230km/h運転で対抗しましたが、快適さは向上したものの、所要は2時間49分と10分だけの短縮に留まっていました。
1993年3月に速達タイプの「のぞみ」が登場して、山陽新幹線の270km/h運転が実現。
それでもまだまだ飛行機には太刀打ちできません。
「WIN350」は、少しオーバーにいえば、山陽新幹線の生き残りをかけ、最高速度350km/h走行を目指し、次世代の500系の開発のベースとなった高速試験車両ということに。
特筆すべきは、将来量産車が500系として登場することを前提に製造されたという点。
試験車両というものの、500系の試作車という扱い(歴代新幹線では唯一の試作車)ですが、通常の試作車は営業に投入される場合がありますが、「WIN350」は500系製造時に廃車となっています。
試験車両とはいうものの、新たに開発する技術の研究ではなく、実用化が前提のため、既存の技術を注ぎ込み、高速化と環境という対立する問題を解決することに主眼が置かれました。
1996年5月25日に最終運用が行なわれ、いよいよ500系の量産化となったのです。
1997年3月、新大阪~博多間にJR西日本念願の500系「のぞみ」が、「飛行機キラー」として投入され、ついに最高速度300km/h運転が実現したのです。
6両編成ですが、量産化を想定し、4号車は博多寄りがグリーン車を想定した2+2列、新大阪寄りに普通車の2+3列という座席が配置、3号車にはトイレも設備していました。
現在法定速度国内3位の上り「のぞみ64号」は博多駅〜新大阪駅を2時間21分で結び、JR西日本誕生時に比べると38分短縮したことになり、乗り換える手間もないことで少し飛行機に対して優位性が生まれています。
飛行機との熾烈な戦いに挑んだ500系新幹線試作車「WIN350」とは!? | |
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