今でも温泉ホテルや旅館、一部のラグジャリーなホテルでは、客室に備え付けの冷蔵庫にビールやジュースが冷えていたりすることがあります。それに対して、シティホテルなどでは、冷蔵庫が空になっているケースも。かつては冷蔵庫は空でなかった時代もありますが、なぜ空になったのでしょう?
「冷蔵庫が空」の始まりはプリンスホテル!?

「1部屋2万円以上払って冷蔵庫は空でした」
そんなクレームもあるという東京都心の一等地に建つシティホテル。
シティホテルはもちろん、リゾートホテルでも、冷蔵庫は空というところが増えています。
なぜなのでしょう?
チェーンホテルで最初に冷蔵庫の中を潔く空にしたのは、西武王国を築いた堤義明会長時代のプリンスホテル。
堤義明会長は、全国のプリンスホテルから毎月集まる客室に備え付けの「投書」にすべて目を通し、すぐに改善を指示するという徹底ぶりでしたが、ホテルマンのアイデアも採用して、サービス向上を図っていました。
バブル弾けた頃、ホテルマン側からの内部提案が、「客室の冷蔵庫を空にすること」。
客室の冷蔵庫に飲み物を入れると、館内の売店で販売するよりも高い価格になります。
その最大の理由は、人件費。
客室係が冷蔵庫に飲み物を補充しても、全客室を責任者(部門マネージャー)が再度チェックする必要があります。
しかも支払いは自己申告でチェックアウト時にフロントでという、煩雑さも(利用者、ホテル側がともに煩雑)。
こうした膨大な手間から、冷蔵庫内の商品単価は高めの設定になってしまいます。
「思い切って冷蔵庫を空にして、その分、売店の品揃えを充実させては」というのが新しい提案でした。
当然、ホテルマンの間でも、管理部門でも大きな論争となりましたが、「冷蔵庫を高い飲み物で埋めるより、好みのものを売店で購入してもらう方がサービス向上につながる」という意見が大勢を占め、堤会長の判断で、「冷蔵庫は空に!」となったのです。
その背景には浮かれたバブルが崩壊し、実質本位という世相がありました。
芦ノ湖湖畔の一等地に建つフラグシップホテルの「箱根プリンスホテル」(現在の「ザ・プリンス 箱根芦ノ湖」)の本館は、村野藤吾設計の円形で、多くのVIPも迎えていますが、冷蔵庫は空に。
VIPの時にはあらかじめ冷蔵庫に飲み物などを入れておくなど、臨機応変な対応を心がけたようですが、基本的に「冷蔵庫は空、売店を充実」という試みがスタートしたのです。
管理部などもウエルカムだったのは、人手不足を補えるから。
ホテル側の省力化、利用者側のサービス向上(余分な負担がない)という一挙両得という効果があったのです。
それ以降は、プリンスホテルだけでなく、「冷蔵庫は空」という大手チェーンも増加し、売店のコンビニ化が進んでいきました。
有名作家もご贔屓という「東京プリンスホテル」も館内に「ローソンサテライト 東京プリンスホテル店」があり、コンビニで購入した飲み物を部屋でいただけるかたちです。

| ホテルの冷蔵庫は、なぜ空になった!? | |
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