線路をジグザグに敷くことによって標高差を克服する手段がスイッチバック(switchback)です。以前は、道路などにもありましたが道路改良が進み、ほとんど姿を見なくなりました。鉄道も車両の近代化や新線の開通などでスイッチバックをする場所は限られたものになっています。箱根、奥出雲と九州に現存するスイッチバックを紹介。
標高差を克服するため、線路をジグザグに敷設
全国のスイッチバックに共通する点としては、明治、大正時代に開業した歴史ある路線だということです。
蒸気機関車や、まだパワーのない電車が標高差を克服すっるために線路をジグザクに敷設したのがスイッチバック。
新線の誕生なので廃止された場所も多いのですが、箱根や、九州にはスイッチバックが残されています。
なかでもスイッチバックの代名詞ともいえるのが箱根登山鉄道(小田急箱根鉄道線)です。
小田急箱根鉄道線の3連続スイッチバック|神奈川県箱根町
箱根の玄関口である箱根湯本駅の標高は標高108m。
箱根登山鉄道(小田急箱根鉄道線)の終点、強羅駅の標高は553mもあります。
つまり箱根登山鉄道は標高差447mを登る、箱根登山鉄道(小田急箱根鉄道線)は、まさに登山鉄道なのです。
氷河急行やベルニナ急行で有名なスイス、レーティッシュ鉄道との姉妹提携を結んでいますが、実は箱根登山鉄道は、スイスのレーティッシュ鉄道(当時はベルニナ鉄道)を参考に大正8年に建設された山岳鉄道。
スイスでは国鉄のBrunig線にマイリンゲン(Meiringen)のスイッチバックなどが現存していますが、鉄道敷設当初からループとスイッチバックでアルプスの高度さを克服していて、箱根に線路を敷設する際にもそんなスイスを参考にしたのだと推測できます。
全線で標高差447mという箱根登山鉄道(小田急箱根鉄道線)ですが、標高165mの塔ノ沢駅から標高448mの宮ノ下駅間はもっとも標高差が大きく、急勾配と急なカーブが連続。
283mの標高差を、3ヶ所のスイッチバックで克服しています。
塔ノ沢駅を出て、出山(でやま)の鉄橋を渡るとトンネルに入りますが、トンネルを抜けると最初のスイッチバック出山信号場(標高234m)。
信号場というのは駅ではないので乗降はできません。
簡易的なホームがありますが、これは運転手と車掌が場所を交代するため。
交代が終わり次第、列車は逆方向に走り出します。
出山信号所からトンネルを3つ抜けると大平台駅(標高349m)。
正月の箱根駅伝で大平台のヘアピンカーブというのが登場しますが、並走する国道1号線は地図で見ての通り、方向を180度転換するようなヘアピンカーブで大平台のギャップを克服しています。
大平台駅で再び運転手と車掌が入れ替わり、またまた逆方向に走り出すと、すぐに上大平台信号場(標高359m)です。
ここでもまたまた運転手と車掌の入れ替わりと、進行方向の逆転があります。梅雨時ならあじさいがきれいなのですが、雨の日には乗務員は大変です。
このスイッチバックをどう美しく地図に表現するかは、実は地図製作者の腕の見せ所でもあるので、ぜひお手元の地図のチェックを(近年のデジタル地図では丁寧に表現されていないのが残念です)。
豊肥本線・立野駅のスイッチバック|熊本県南阿蘇村
大正5年に宮地軽便線の駅として鉄道省が開業したという歴史ある駅が立野駅(標高277m)です。
赤水駅(標高465m)との間の188mをスイッチバックを使って克服。
スイッチバックの折り返し点の標高は306mで、立野駅で方向を変えてから30mの勾配を登り、方向を転換します。
地図を1/15万程度にして見ていただくとわかるのですが、立野駅は阿蘇カルデラ(阿蘇火山の爆発で誕生した釜状の凹部)の外輪山の一角にあたります。
白川の浸食で世界的な規模を誇る阿蘇カルデラの外輪山は、この部分だけ途切れていますが、地形的にはカルデラ底にある赤水駅へは、外輪山外側山麓の立野駅からかなりの勾配を登ることになるのです。
木次線・出雲坂根駅の三段式スイッチバック|島根県奥出雲町
島根県松江市の宍道駅から広島県庄原市の備後落合駅を結ぶ木次線(きすきせん)。
中国山地を山越えする「陰陽連絡路線」のひとつで、昭和12年12月12日、鉄道省木次線八川駅〜備後落合駅間の延伸に伴って開業したのが出雲坂根駅。
三井野原駅は島根県と広島県にまたがり、「高天原」(たかまがはら)とも呼ばれる高原地帯で、戦後の開拓で人家が誕生、駅の開設も、三井野原仮乗降場として昭和24年のこと。
出雲坂根駅(標高565m)からJR西日本で最も標高の高い三井野原駅(727m)までの157mもの標高差がある山越えで、全国でも大変珍しい三段式スイッチバック(Z型)で島根・広島県境にそびえる比婆山(ひばやま)を突破しています。
並走する国道314号は「奥出雲おろちループ橋」とループで中国山地を越えています。
肥薩線・大畑駅のループ&スイッチバック|熊本県人吉市
標高294.1m、熊本・宮崎県境の国見山地を越える「大畑ループ線」の中にあるスイッチバックの駅が、大畑駅(おこばえき)。
ループ線のなかにスイッチバックのある駅は、日本広といえどこの大畑駅だけです。
人吉駅(標高106.6m)と矢岳駅(536.9m)の標高差430mをループ線とスイッチバックというダブルの手段で克服するというレアな路線
明治42年12月26日、13人もの犠牲者を出し、山間部を通る鉄道を開通させたのは、海岸部を走ると艦砲射撃の対象になるとの軍事的な判断から。
もともと肥薩線は鹿児島本線と名乗っていました。
現在の川内経由の路線が全通するのは実は昭和2年のこと。
並走する国道221号もループ橋で高度差を克服しています。
肥薩線・真幸駅のスイッチバック|宮崎県えびの市
ちょっと意外かもしれませんが明治44年3月11日に、宮崎県で最初に誕生した駅が肥薩線・真幸駅(まさきえき/標高380m)。
矢岳駅は熊本県、吉松駅は鹿児島県にあり、3駅連続して所在県が変わることからも、県境の山岳路線であることがわかります。
度重なる土石流災害に住民は移転し、現在は周辺に人家一つない秘境駅になっているのは歴史の皮肉でしょうか。
加久藤カルデラの外輪山にあたり、北部の傾斜は比較的緩やかですが(それでも大畑のループとスイッチバックが必要ですが)、南部の加久藤盆地(えびの盆地)側は急崖をなし、かつては交通の難所として知られていました。
肥薩線の真幸駅~矢岳駅(536.9m)間の矢岳越えは、「日本三大車窓」の一つに数えられますが、一気に157m余りも登っています。
【日本スイッチバック総覧】スイッチバックで山登り! | |
掲載の内容は取材時のものです。最新の情報をご確認の上、おでかけ下さい。 |
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