ヒグマはかつて本州にもいた!

ヒグマというと北海道しか生息していない熊で、津軽海峡には「ブラキストン線」があり、これが生態系を分け、本州にはツキノワグマが生息していると説明されてきました。ところが本州の遺跡からもヒグマの骨は出土し、かつては本州にもヒグマが生息していたことが明らかになっています。

ヒグマもアジア大陸がルーツ

世界には8種類の熊が生息していますが、アジア大陸がルーツの熊がヒグマ。
その亜種となるのが北海道に生息するエゾヒグマです(環境省の調査によると、山岳地帯を中心に北海道の55%の地域にヒグマが生息しています)。

ではエゾヒグマはどこからやって来たのでしょう?
ヒグマは北半球に広く生息する熊で、学名はUrsus arctos。
Ursusはラテン語で「熊」、そしてarctosはギリシャ語で「熊」あるいは「北」なので熊の熊、北の熊という意味合いになります。

現在はユーラシア大陸と北アメリカ大陸、北海道など広範囲に生息していますが、ルーツはツキノワグマ(本州に生息するのは亜種のニホンツキノワグマ)と同じで、アジア大陸。
アジア大陸から遠く北アメリカ、ヨーロッパまで生息環境を広げましたが、現在、西ヨーロッパでは都市化が進んでほぼ絶滅状態になっています。

北海道に生息するヒグマ(エゾヒグマ)は遺伝子解析から、道北-道央型、道東型、道南型に分かれていますが、最初に北海道に「移住」したのは、本州から渡った道南型であることが判明しています。
34万年以上前に日本列島に移住したヒグマが本州から渡った道南型で、14万年前の寒冷期に起こった海面低下に伴って、北海道を経由して本州に移動したヒグマもいたことも明らかになっています。

さらに数万年前の日本列島では「ツキノワグマとヒグマが共存していた」(あるいは熾烈な縄張り争いを展開していた)ことが、出土する化石から判明。
氷河期にツキノワグマ同様に日本列島に渡って来たヒグマは、温暖化することでツキノワグマとの生存競争(あるいは縄張り争い)に敗れ、環境の変化に順応できずに北へ北へと追いやられ、最後に北海道へと渡ったのだと推測されています。

氷河期には巨大なヒグマが本州に生息していた

群馬県上野村と埼玉県秩父市から出土したヒグマの骨の放射性炭素による年代測定で、3万2500年前と1万9300年前の個体だと解析されていますが、ヒグマが北海道へと追いやられたのは後期更新世(12万6000年前〜1万1700年前)。

縄文時代早期(1万4000年前〜)には本州(三内丸山遺跡など北東北)にもヒグマは生息していたことが出土する骨の大きさから判明しています(ヒグマの骨はツキノワグマよりも大型)。
また本州から出土するヒグマの骨を分析すると、現在北海道に生息するヒグマよりもさらに大型だったことがわかっています。

実はヒグマもツキノワグマ同様に雑食性で、糞を分析すると、主食はおもにフキなどの植物であることがわかります。
植物の新芽の少ない秋には、蜂などの昆虫、鮭鱒などの魚も捕食して冬眠前の栄養分を補っています。

日本列島に渡来して以降、ヒグマもツキノワグマ同様に環境の変化に順応し、おもには草食という雑食性に転じたのです。
このようにヒグマも本来は肉食獣ではなく雑食性ですが、近年、エゾシカが増大している環境から、死んだ鹿を食することを覚え、生きた鹿を襲うなど、肉食化している個体もあるといわれます。
肉の味を覚えることで、明治時代に開拓農民が襲われたような「人食い熊」の危険性が増しているのかもしれませんが、本来、人を襲うのはあくまでも身を守るという防御反応です。

さてさて、イギリスの動物学者のトーマス・ライト・ブラキストン(Thomas Wright Blakiston)が提唱した津軽海峡を通る哺乳類、鳥類など動物相の分布境界線が、ブラキストン線。
本州のツキノワグマ、ニホンジカに対し、津軽海峡を越えると大型化しヒグマ、エゾシカに、そして北海道にはホンドタヌキが生息しない(エゾタヌキが生息)など、津軽海峡が生息環境を分ける線という説です。

明治10年代に提唱された古き学説のため、今ではかなり死語にもなっていますが、現状ではヒグマが津軽海峡を泳いで渡る可能性は少ないため、北海道にはヒグマ、本州と四国にツキノワグマという棲み分けが固定化されています。
もし、津軽海峡を渡って本州に再上陸するようなことがあれば、まさにそれは先祖が暮らした地に「再上陸」ということになるのです。

結論をいえば、34万年前〜2万年前、本州にはヒグマが生息していました。
縄文時代早期にも北東北にはまだヒグマが残っていたことがわかっています。

ヒグマはかつて本州にもいた!
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ツキノワグマはどこからやって来た!?

本州と四国に生息するツキノワグマ。かつては九州にも生息していましたが、現在ではほぼ絶滅状態です。そのツキノワグマ、本州、四国のブナの森、紀伊半島の常緑樹林を生息環境にしていますが、もともとはアジア大陸が生息環境。日本列島がほぼ陸続き状態だっ

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