【全国雑煮図鑑】　「くるび味」の代表　三陸・宮古「くるみ雑煮」

三陸沿岸の港町、岩手県宮古市では、結婚式のお祝い、葬儀や法要などの不祝儀（ぶしゅうぎ）の膳に、「くるみ雑煮」が出されます。ハレの日の膳、あるいはもてなしの料理ということで、正月にも「くるみ雑煮」が食されるのです。別の容器に入れた「くるみダレ」で餅を食すというのがこの地の伝統です。

「くるび味」＝「何ともいえないほど美味しい味」

そばを「くるみダレ」で味わう「くるみそば」は信州、岩手などでも目にしますが、餅を「くるみダレ」で味わうのは珍しいスタイル。
そのままの出汁で味わい、少し飽きたら「くるみダレ」という具合に味変的に味わうのが一般的なんだとか。

三陸の沿岸部では夏の海霧で米の生育が悪いことも多く、米は貴重品でした。
その米を搗いた餅もハレの日の貴重品だったことから、大切に味わおうという気持ちが生んだのが、「くるみ雑煮」。

「くるみダレ」に使われるのは、地元に自生するオニグルミ（和グルミ＝遠野が産地として有名です）。
縄文文化が花開いた東北ですが、オニグルミは縄文時代からの保存食で、舶来のクルミに比べてタンニンや油分が少なく、渋みやえぐみが少ないのが特徴です。

「くるみ雑煮」の具材は、焼き豆腐、大根、人参、ごぼう、椎茸、こんにゃく、ちくわなど。
餅は、東日本文化圏で角餅です。
出汁（だし）は、煮干しと昆布で醤油味。
「くるみダレ」は皮を剥いたオニグルミをすり鉢ですりおろし（地元、宮古では年末になるとスーパーなどで販売）、砂糖と塩を混ぜ、雑煮の汁で伸ばしたもの。

岩手県ではオニグルミが食生活に深く根付き、わんこそばでもくるみダレが用意される場合が多々あります。
宮古など三陸沿岸では、「くるび味（くるみ味）」といえば、「何ともいえないほど美味しい味」を意味します。

「くるみ雑煮」はまさに、「くるび味」の代表格です。