香川県観音寺市にある現存する日本最古の石積み式マルチプルアーチダムで、国の重要文化財に指定(指定名称は「豊稔池堰堤・ほうねんいけえんてい」)。干ばつ対策、農業用水の安定供給を目的に大正15年に着工され、延べ15万人による人海戦術によって昭和5年に完成しています。コンクリートで補修されてはいるものの、基本構造は石積みです。
古城を思わせるフォルムの石積みダムは、国の重要文化財
「嫁にやるなよ大野原の里へ 夜も夜伽(よとぎ)のない里ぞ」
「大野原は月夜にも焼ける」
これは地元に伝わる戯れ歌。
三年に一度の干ばつという苦しい状況で、昼も夜もなく水の確保に奔走しなければならなかった農民の苦渋が歌われたもの。
讃岐山脈から流れ出る柞田川(くにたがわ)を上流で堰き止め、農業用水確保のために、大正時代に県営ダムが計画されたのです。
大正時代は、まだまだコンクリートダムの築造技術が確立しておらず、従来工法の土堰堤では決壊の恐れもありました。
そのため、初めての石積みマルチプルアーチダムを採用し、豪雨時にはあふれそうな水を安全に堰堤から排出するため扶壁(ふへき)にはサイフォンが組み込まれています(洪水が堰堤天端を15cm超えると自動的にサイフォンが機能し、洪水吐から排出)。
使用された石は堰堤近くの田野々などで採取し、土は海岸で採取して牛馬車で運搬しています。
工学博士・佐野藤次郎の指導で、当時米国で最新技術だったアーチ止水壁が複数連なるマルチプルアーチ式を採用した、多連式アーチダム。
単一のアーチ式に劣り、地震に対しての脆弱性なども指摘されることから日本国内では豊稔池ダム以外には宮城県の大倉ダム(昭和36年完成/コンクリートダム)だけという珍しいものです。
豊稔池は、農林水産省の「ため池百選」に選定
堤高32.3m、堤頂長158.4mで、ダム湖となる豊稔池は、農林水産省の「ため池百選」に選定されています。
当初、ダム湖の名前は地名をとって「田野々池」でしたが、大内郡水主村(現・東かがわ市)の三土忠造(みつちちゅうぞう)大蔵大臣が「水不足に苦しむ大野原の台地が豊かに稔ることを願って」豊稔池と命名しました。
田植えの時期、さらに「ゆる抜き」(放流行事/毎年7月中旬〜下旬頃、不定期)では、堤からの放水が行なわれ、この放水がシャッターチャンス。
ダムの直下に豊稔池遊水公園が整備され、車を止めて見学が可能です。
豊稔池ダム | |
名称 | 豊稔池ダム/ほうねんいけだむ |
所在地 | 香川県観音寺市大野原町田野々 |
関連HP | 観音寺市公式ホームページ |
電車・バスで | JR観音寺駅からタクシーで25分 |
ドライブで | 高松自動車道大野原ICから約8km |
駐車場 | 豊稔池遊水公園駐車場(10台/無料)など |
問い合わせ | 観音寺市文化財保護協会事務局 TEL:0875-23-3943 |
掲載の内容は取材時のものです、最新の情報をご確認の上、おでかけ下さい。 |
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