北斎&広重 浮世絵に描かれた湯島聖堂・神田川

御茶ノ水駅から、ニコライ堂と湯島聖堂、2つの聖堂を結ぶ聖橋を渡ると、湯島聖堂。御茶ノ水と湯島は隣接していたことに改めて気づきますが、そんな湯島の端に建つのが、江戸幕府が昌平坂学問所を設置した、湯島聖堂です。脇を流れる神田川、見事な峡谷をつくっていますが、実はこの部分、手掘りで掘削した運河なのです!

広重『名所江戸百景 昌平橋聖堂神田川』(魚栄版)


手前(右下)に描かれた木橋が昌平橋。対岸の坂道に築地塀が並ぶのが湯島聖堂です。幕末の1857(安政4)年頃の情景。タウンゼント・ハリスが江戸参府を果たした頃の様子です。現在の地図に直せば、神田郵便局前(千代田区神田淡路町2-2-12地先)あたりから描いたもの。

流れる神田川は、井の頭の湧水(現・井の頭恩賜公園/武蔵野市)を源に、武蔵野から都心部に江戸・東京を西から東へと横断し、隅田川に注ぐ一級河川。
家康の江戸の城下町整備は、海と低湿地の埋立から始まりました。現在の日比谷から大手町にかけては江戸湾の入江。神田川も元の姿は平川で、水道橋から九段下を流れて日比谷入江に注いでいました。
1590(天正18)年に、家康が江戸に入府すると、真っ先に手掛けたのが河川改良と流路の変更。神田川を運河化して隅田川に流すことで、日比谷一帯の乾燥化と干拓が進み、江戸城への資材の流入として運河の掘削が進みました。

広重『名所江戸百景 昌平橋聖堂神田川』でも峡谷のように見える神田川ですが、実は1620(元和6)年、日比谷入江を陸士化するための流路変更で掘られた峡谷。現在明治大学の建つ駿河台(当初は神田山、家康没後に駿河国から徳川家臣団が移り住み、駿河台と称されるように)と本郷台と呼ばれる台地を手掘りで掘削。だから川幅も狭く、切り立っているのです。

当初は水の流路確保だけでしたが、1660(万治3)年2月、仙台藩・伊達綱宗に舟運のために、牛込から和泉橋までの浚渫と両岸の修復という大工事「礫川堀の普請お役」が命ぜられます。

もっとも難工事だったのが、現在の昌平橋から上流、聖橋〜水道橋部分で、今も仙台堀と呼ばれています。藩主仮屋が、当時の吉祥寺前(吉祥寺市に移転前の吉祥寺=文京区本郷1丁目の現・東京都立工芸高等学校)に設けられましたが、伊達綱宗は、吉原の花魁(おいらん)に一途(いちず)で、ついにお家騒動(伊達騒動)に発展します。

今も錦絵に描かれた築地塀が残されています
千代田区と文京区の境界線にある昌平坂

広重「江戸名勝図会 昌平橋」


現在の聖橋の南詰あたりから、千代田区外神田2丁目方面を眺めたところ。架かる橋が昌平橋です。最初に橋が架設されたのは寛永年間(1624年〜1645年)で、その後、1691(元禄4)年、徳川綱吉が上野から孔子を祀る聖堂を湯島に移し、孔子生誕地である魯国の昌平郷にちなんで昌平坂、昌平橋と名付けられました。
現存する昌平橋は大正12年4月の架橋で、神田川に架かった最初の鉄筋コンクリート製アーチ橋。

2度に渡る掘削工事で、無事、神田川は舟の通る運河となりましたが、将軍御用達の「御茶の水」は水没してしまいます。
その代わり、立派な峡谷を昌平坂学問所を訪れる人達は、『三国志』にも出て来る中国の名勝「赤壁」にならって「小赤壁」(しょうせきへき)と呼んだのだとか。となると、さしずめ、この絵柄は「雪の小赤壁」です。

明治時代の昌平橋。南詰、現・神田淡路町2丁目、損保会館前からの眺め
現在の昌平橋。下流の万世橋からの眺めで、総武本線が神田川を渡る

北斎『新板浮絵神田明神御茶の水ノ図』(伊勢屋利兵衞版)

手前に描かれているのが神田明神の鳥居と、随神門。奥の屋根に何やら装飾が施されているのが、湯島聖堂です。実は神田明神と湯島聖堂の間の、往来の多い道は中山道。板橋・京方面への眺めということになります。現在の地図と比較すると、少し湯島聖堂が右側すぎる感じがするのは、デフォルメなのでしょうか。
屋根上の装飾は、現在の湯島聖堂の屋根にもある鬼犾頭(きぎんとう)です。往時のものは関東大震災で焼け落ち、大成殿内に保存されています。
鬼犾頭は、鯱(しゃちほこ)同様に、龍頭魚尾の架空の霊獣で、頭から潮を噴き上げている水の神。火防の象徴的な存在です。

江戸切絵図で見る湯島聖堂・昌平橋

湯島聖堂
名称 湯島聖堂/ゆしませいどう
所在地 東京都文京区湯島1-4-25
関連HP 湯島聖堂公式ホームページ
電車・バスで JR・東京メトロ丸の内線御茶ノ水駅、東京メトロ千代田線新御茶ノ水駅から徒歩2分
駐車場 周辺の有料駐車場を利用
問い合わせ 湯島聖堂 TEL:03-3251-4606/FAX:03-3251-4853
掲載の内容は取材時のものです、最新の情報をご確認の上、おでかけ下さい。
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