前田家別邸

前田家別邸

現在の熊本県玉名市天水町、かつての玉名郡小天村(おあまむら)湯ノ浦は出湯の里で、小天温泉にも数軒の湯宿がありました。そのうちの一軒が前田家別邸。明治30年の暮に旧制五高に勤めていた夏目金之助(夏目漱石)は、同僚と2人で前田別邸を訪れ、離れに宿泊。この旅のエピソードが小説『草枕』として発表されています。

夏目漱石『草枕』の舞台となった離れ、浴場が現存

幕末に熊本藩主・細川慶順(ほそかわよしゆき=版籍奉還後、初代熊本藩知事)に剣術指南として仕えた前田覚之助は、明治維新後、前田案山子(まえだかがし)と改名し、自由民権運動に参加。
明治11年、小天温泉に建てた前田家別邸には、中江兆民、岸田俊子(中島湘烟)、中国革命の志士(孫文を首領とする中国同盟会を組織)・黄興(こうこう)などが訪れ、時には大演説会が開かれることもありました。
さらに請われるままに一部を温泉宿として営業したので、夏目金之助が教授を務めた旧制五高(第五高等学校)の教師なども訪れています。

明治30年大晦日、夏目漱石は、大学時代の友人で旧制五高教授の山川信次郎とともに小天温泉に出かけ、そのときの体験をもとに『草枕』(明治39年『新小説』に発表)を執筆しています。
夏目漱石の小説『草枕』には、小天という地名は那古井として紹介され、前田家別邸は「那古井の宿」、前田家は「志保田家」、案山子が「老隠居」、長男・ 下學が「兄さん」、次女・卓(つな)が宿の「若い奥様・那美」、庭池も「鏡が池」として登場しています。
「若い奥様・那美」として「今まで見た女のうちでもっともうつくしい所作をする女」と記された次女・卓は、離婚して実家を手伝っていたこともあり、『草枕』発表後、地元の新聞などに漱石との関係を疑われるなどもしているのです。

残念ながら本館と離れの一部はすでに失われ、母屋も建て替えられていますが、漱石が宿泊した離れの6畳間(離れの北半分ほど)と半地下となった浴場、池が現存、公開されています。

当時としては貴重な人造石(セメント)の浴室は、「石に不自由せぬ国と見えて、下は御影で敷き詰め」と漱石も石敷きと誤解をしています。

『草枕』のなかで浴場は、「画工」の入浴時、湯煙の中に「那美さん」が手拭を下げて湯壺へ下りて来る情景が描かれていますが、実際には漱石と山川信次郎が入浴中、次女の卓が「女湯がぬるかったので、もう遅いから誰も居ないと思って男湯にはいって入ったら、2人が入っていた」のが真相。
『草枕』では4段と記された階段は、実際は7段あり、頭脳明晰で知られる漱石の記憶力をしても段数までは覚えていなかったようなのです。

前田家別邸の浴場は入浴できませんが、「草枕温泉てんすい」は、全体が前田家別邸の回廊仕立てをイメージした構造で、前田家別邸の浴場を模した半地下構造の「草枕の湯」が設けられています。

前田家別邸
名称 前田家別邸/まえだけべってい
所在地 熊本県玉名市天水町小天735-1
関連HP 漱石・草枕の里公式ホームページ
電車・バスで JR玉名駅からバスで30分、小天温泉で下車、徒歩10分
ドライブで 九州自動車道菊水ICから約18km
駐車場 2台/無料
問い合わせ 漱石・草枕の里 TEL:0968-82-4511
掲載の内容は取材時のものです。最新の情報をご確認の上、おでかけ下さい。
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