栃木県大田原市湯津上、那珂川沿いを走る国道294号近くに鎮座する笠石神社境内にあるのが那須国造碑(なすのくにのみやつこのひ)。国宝に指定される飛鳥時代の貴重な石碑で、宮城県多賀城市の多賀城碑、群馬県高崎市吉井町の多胡碑とともに日本三古碑に数えられています。
文武天皇4年(700年)に建立された古碑は、国宝!
那須国造碑(なすのくにのみやつこのひ)は、永昌元年(持統天皇3年・689年)、那須国造で評督に任ぜられた那須直葦提(なすのあたいいで)の事績を息子の意斯麻呂(おしまろ)らが顕彰するために、文武天皇4年(700年)に建立されたもの。
碑高148cmの花崗岩の石碑で、文字の刻まれた石の上に笠のように石を載せていることから「笠石」とも呼ばれています。
冒頭に「永昌元年己丑四月飛鳥浄御原大宮那須国造」(永昌元年己丑四月、飛鳥浄御原朝に、那須国造で追大壹の那須直韋提は、那須評督に任じられた)とあり、さらに次る年の正月二壬子の日辰節に亡くなったと続いています。
故人の業績を讃え、最後に最後に「子不改其語銘夏尭心澄神照乾六月童子意香 助坤作徒之大合言喩字故無翼長飛无根更固」(儒教の教えに従って、父親への孝心をあらわすべく、また仏神の御教えも受けて、ここに一文を草す。故人の遺志が長く広く、地に根付かんことを)とあり、父親への追善供養で建立された碑であることがわかります。
飛鳥浄御原宮(あすかのきよみはらのみや)は、天武天皇と持統天皇の2代が営んだ宮で、飛鳥板蓋宮跡と伝承されてきた地が、その宮跡だと推測されています。
壬申の乱に勝利した大海人皇子が、天智天皇・弘文天皇の都であった近江国(滋賀県)の近江大津宮から飛鳥に都を戻すべく、造営した宮で、ようやく日本の律令制度が始まろうとした時代。
古代国家の基本法の制定、八色の姓(やくさのかばね)の制定(真人/まひと、朝臣/あそみ・あそん、宿禰/すくね、忌寸/いみき、道師/みちのし、臣/おみ、連/むらじ、稲置・いなぎの8つの姓の制度)、地方の国境の確定など、古代国家の基礎が築かれたのが、この飛鳥浄御原宮です。
日本最初の律令となる飛鳥浄御原令(あすかきよみはらりょう)も那須直葦提が那須国造の任ぜられるのとほぼ同時期に発布されています。
実は永昌という元号は、唐の睿宗李旦の治世に使用された元号で、日本の元号ではありません。
日本では持統天皇3年にあたりますが、大宝以前に日本の元号制度はない状態、あるいはもしあったとしても断絶状態で、中国・唐の元号を用いたのだと推測できます。
唐の元号、そして碑の文字が六朝(りくちょう)の書風であることから、新羅(しらぎ=朝鮮半島にあった古代国家)からの渡来人が関係した石碑の可能性も。
長らく草むらの中に埋もれていましたが、延宝4年(1676年)、僧侶・円順により発見され、当時この地を領有した水戸藩主・徳川光圀(とくがわみつくに)が那須国造碑を神体とする笠石神社を創建して碑の保護しています。
那須国造碑(笠石神社)近くには、5世紀の築造と推定される前方後円墳の上侍塚古墳と下侍塚古墳があり、この地が古くから拓けた地、古墳時代にはヤマト王権と密接な関係があった豪族が統治していたことがわかります。
那須国造碑に関連して、徳川光圀は、上侍塚古墳と下侍塚古墳の日本で最初の学術的な発掘調査を実施していますが、被葬者は判明しませんでした。
ちなみに那須国は、律令制度の確立以前に現在の大田原市を中心とする地域にあった古代で、那須直葦提が那須国造に任じられた持統天皇3年(689年)、下野国に編入され那須郡となっています(そのため碑文にも「評督」と刻まれています)。
那須国造碑(笠石神社)の南5kmほどの那須郡那珂川町小川には那須官衙遺跡(なすかんがいせき)があるので、那須直葦提は那須官衙(郡衙の成立は7世紀末〜8世紀初期)に務めていたとも推測できます。
那須国造碑 碑文
永昌元年己丑四月飛鳥浄御原大宮那須国造
追大壹那須直韋提評督被賜歳次康子年正月
二壬子日辰節殄故意斯麻呂等立碑銘偲云尓
仰惟殞公廣氏尊胤国家棟梁一世之中重被貮
照一命之期連見再甦砕骨挑髄豈報前恩是以
曽子之家无有嬌子仲尼之門无有罵者行孝之
子不改其語銘夏尭心澄神照乾六月童子意香
助坤作徒之大合言喩字故無翼長飛无根更固
那須国造碑(笠石神社) | |
名称 | 那須国造碑(笠石神社)/なすのくにのみやつこのひ(かさいしじんじゃ) |
所在地 | 栃木県大田原市湯津上430 |
関連HP | 大田原市観光協会公式ホームページ |
電車・バスで | JR那須塩原駅からタクシーで30分 |
ドライブで | 東北自動車道矢板ICから約22km、または西那須野塩原ICから約23km |
駐車場 | あり |
問い合わせ | 笠石神社 TEL:0287-98-2501 |
掲載の内容は取材時のものです。最新の情報をご確認の上、おでかけ下さい。 |
最新情報をお届けします
Twitter でニッポン旅マガジンをフォローしよう!
Follow @tabi_mag