【知られざるニッポン】vol.72 明月院のアジサイは、牧野富太郎博士の愛したヒメアジサイ

ヒメアジサイ

神奈川県鎌倉市の明月院は、「あじさい寺」と呼ばれ、例年6月になると「明月院ブルー」と呼ばれる青いアジサイに境内が染まります。その「明月院ブルー」と呼ばれるアジサイこそ、「日本の植物学の父」・牧野富太郎博士が命名し、愛したアジサイであることはあまり知られていません。

牧野富太郎博士が命名、自宅にも植えたヒメアジサイ

牧野富太郎博士
牧野富太郎博士

昭和3年、「日本の植物学の父」・牧野富太郎博士(令和5年放送、NHK連続テレビ小説『らんまん』の主人公のモデル)が信州から東北にかけて植物採集旅行をした際、このアジサイを戸隠の民家に植栽されているのを見つけ、花房が小さくて花びらが澄んだ空のように青く、しかも優美だったため、「ヒメアジサイ」(姫紫陽花)と名付け、昭和4年に『植物研究雑誌』で発表し、『改定増補牧野新日本植物図鑑』に掲載しています。

牧野富太郎は戸隠で発見した「ヒメアジサイ」を東京練馬の自宅(現・牧野記念庭園)に植栽するほどのお気に入りでしたが、残念ながら残っていません(高知県立牧野植物園にその系統のヒメアジサイがあり、高知県立牧野植物園から移植されたものが牧野記念庭園に咲きます)。
ちなみに「戸隠を知る会」の令和4年の調査で、戸隠では90ヶ所でヒメアジサイが確認され、ヒメアジサイの聖地ともなっています。

実はこのヒメアジサイ、ホンアジサイとエゾアジサイ(長野県、新潟県の豪雪地帯から北の山地、日本海側の山地に自生)の交雑種と推測されますが、野生(自生種)は確認されていません。
アジサイの仲間は変異が多く、自然交雑による中間型が広く分布するため、厳密に分類するのは難しいのです。

牧野博士が発見する以前の明治12年、イギリスの植物学者チャールズ・マリーズがヒメアジサイをヨーロッパに持ち帰ったところ、酸性の土壌から花が赤くなり、ロゼアと呼ばれています。
ロゼアが、実はヒメアジサイであることを突き止めたのはアジサイ研究家・山本武臣さんで、イギリスからロゼアを取り寄せて栽培したところ、花色が青に変わり、ヒメアジサイであることが判明したのです。

明月院を「あじさい寺」として有名にしたのも、このヒメアジサイ。
「明月院ブルー」は、牧野博士が愛したブルーでもあったのです。

明月院・アジサイ
明月院の「明月院ブルー」

実は西洋アジサイも日本のアジサイがルーツ

アジサイは、日本の固有植物で、西洋アジサイはすべて日本のアジサイがベース。
古くは江戸時代(鎖国時代)に、長崎・出島から中国を経由し、ヨーロッパへと運ばれ、大正時代に里帰りして、日本でも人気となっています。

西洋アジサイの育種の母種に使われた古品種の穂木を取り寄せて、西洋アジサイのルーツが日本のアジサイだと突き止めたのも、ローズがヒメアジサイだと究明した山本武臣さん。

牧野富太郎博士の愛したヒメアジサイは、明月院のほか、牧野記念庭園、高知県立牧野植物園、六甲高山植物園(六甲山上なので見頃は例年7月上旬頃)などで観賞できます。
六甲山ではその土壌にマッチして鮮やかな青色の花を咲かせ「六甲ブルー」と呼ばれ、神戸市の「市の花」にもなっています。

ちなみに、日本あじさい協会認定の「日本一のあじさい園」は、6月下旬~7月下旬に400種4万株のアジサイが咲き誇る「みちのくあじさい園」(岩手県一関市)で、関東のアジサイが終わってから、観賞できるアジサイです。

ヒメアジサイ
六甲高山植物園に咲くヒメアジサイ
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ラジオ・テレビレジャー記者会会員/旅ソムリエ。 旅の手帖編集部を経て、まっぷるマガジン地域版の立ち上げ、編集。昭文社ガイドブックのシリーズ企画立案、編集を行なう。その後、ソフトバンクでウエブと連動の旅行雑誌等を制作、出版。愛知万博公式ガイドブックを制作。以降、旅のウエブ、宿泊サイトにコンテンツ提供、カーナビ、ポータルサイトなどマルチメディアの編集に移行。

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