旧吉田茂邸

旧吉田茂邸

神奈川県中郡大磯町、大磯プリンスホテルの東、神奈川県立大磯城山公園の一角にあるのが、旧吉田茂邸(きゅうよしだしげるてい)。戦後、最初の国葬となった吉田茂の別荘を再生したもので、明治17年、養父で実業家(横浜有数の富豪)の吉田健三が土地を購入、別荘を構えたのが始まり。

戦後初の国葬となった吉田茂の別荘を再生

吉田健三は、明治21年、40歳で急逝し、跡を継いだ吉田茂は、養父が築いた莫大な財産を外交官時代に使い果たしたといわれていますが、大磯の別荘だけは手放さず、現存しているのです。
吉田健三が大磯に土地を購入するのは、海水浴場開設の前年。
その後の発展を見越していたのかもしれません。
吉田茂も幼少期には、横浜の吉田健三邸で暮らし、しばしば大磯の別荘を訪れています。

戦時下では、吉田茂は戦争の早期終結を目指して奔走し、磯町内に家を構えていた「ヨハンセングループ」(吉田茂を中心とする戦争終結工作グループ)の樺山愛輔(かばやまあいすけ)、池田成彬(いけだしげあき)、原田熊雄(はらだくまおら)としばしば別荘で会談、憲兵隊の内偵工作によって発覚し、昭和20年4月、吉田茂が検挙され40日間ほど拘留されています(独房という当時としては厚遇で、不起訴・釈放、この検挙歴が戦後、GHQに好印象をもたらしています)。

戦後、昭和20年8月、終戦処理内閣の東久邇宮稔彦王(ひがしくにのみやなるひこおう)内閣(憲政史上唯一の皇族内閣)に外務大臣として入閣。
続く幣原喜重郎内閣のときも外務大臣として再任、昭和21年5月には第一次吉田茂内閣が成立、第5次まで内閣を組閣し、長期政権を作り上げた吉田は、日本国憲法、教育基本法、学校教育法、労働基本法、独禁法、労働組合法、公職選挙法、生活保護法、地方公務員法、覚せい剤取締法、警察法、自衛隊法&防衛庁設置法などの公布、サンフランシスコ講和条約・日米安全保障条約への調印など、戦後民主主義の基礎を築いています。

吉田茂は、戦時下の昭和20年頃から疎開と「ヨハンセングループ」の戦争終結計画の実現を兼ねて大磯暮らしを開始し、昭和29年に内閣総理大臣を辞してからも、大磯に隠棲。
大磯詣(おおいそもうで)という言葉が生まれるほど、慕われていました。

そのため、自身の邸宅を海外の賓客を迎えるための迎賓館として改築。
昭和35年、西ドイツ首相・アデナウアーを迎え入れるなど、外交官時代からの人脈で、大磯の別荘を舞台に日本の国際化に貢献しています。

昭和42年10月20日、大磯にて没(満89歳)。
前日の「富士山が見たい」が最後の言葉で、一日中快晴の富士山を眺めていました。
10月23日にカトリック関口教会(東京都文京区)で密葬が行なわれ、10月31日には戦後初の国葬が日本武道館で実施(現在の墓所は横浜市の久保山墓地)。

平成21年3月22日、吉田茂邸で火災が発生、母屋は全焼。
現在の建物群は、平成28年までに再建されたもの(一部を除いてほぼ焼失前の邸宅を再現)。
内閣総理大臣であった吉田茂が執務室として建てた「応接間棟」、海外からの賓客を迎えるために建築した「新館」があり、大磯町郷土資料館の一部として公開されています。

大磯城山公園内には「湘南の丘陵と海」をテーマにした大磯町郷土資料館もあるので、あわせて見学を。

旧吉田茂邸
新館の食堂「ローズルーム」(画像/大磯町郷土資料館)

大磯海水浴場に始まる別荘地大磯の歴史

大磯は、我が国初の西洋医学に基づく公立病院・長崎養生所を設立した軍医・松本順(松本良順)が、明治18年、漁の邪魔になるという漁師を説得して海水浴場が開設した地。

東海道が街道としての機能を失って廃れていた時代、海水浴場の設立は大磯によっては救いの手で、松本順は総理大臣・伊藤博文に海水浴と国民保養の必要性を力説し(海中の鉄棒につかまり海水に浸かる潮湯治的な療養を提唱)、大磯に停車場を設置するよう働きかけ、旅館と病院を兼ね備えて「祷龍館」(とうりゅうかん)を建設。
松本の尽力を契機に、 渋沢栄一も「祷龍館」にしばしば訪れて滞在、東京に近い保養地、「別荘地大磯」として発展していきます。

下の錦絵は明治26年刊『大礒海水浴 富士遠景図』(画・小国政=3代国貞の長男)。
左の絵に海中の鉄棒が描かれています。

旧吉田茂邸
名称 旧吉田茂邸/きゅうよしだしげるてい
所在地 神奈川県中郡大磯町西小磯418
関連HP 大磯町郷土資料館・旧吉田茂邸公式ホームページ
電車・バスで JR大磯駅から神奈川中央交通バス二宮駅行き、西公園前行き、大磯プリンスホテル行きで5分、城山公園前下車、徒歩3分
ドライブで 西湘バイパス大磯西ICから約3.5km
駐車場 大磯城山公園旧吉田茂邸地区駐車場(23台/平日無料、土・日曜、祝日有料)を利用
問い合わせ 旧吉田茂邸 TEL:0463-61-4777/FAX:0463-61-4779
掲載の内容は取材時のものです。最新の情報をご確認の上、おでかけ下さい。
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