全国7位の推定人口107万人(0.85%)を擁するのが、中村さん。データによっては8位とランク付けする調査もありますが、いずれにしろTOP10入の大姓で、しかも地形由来(地形姓)で、かつ地名由来の名前。実は名古屋市中村区のように、中村という地名は日本一多い地名ともいわれ、中村さんのルーツは全国に散らばることに。
全国的に分布する中村さん
全国で107万といわれる中村さんは、日本の大姓7位、もしくは8位となる苗字。
集落の誕生は、定住が始まる縄文時代の始めで、縄文時代前期から中期にかけて集落が巨大化して「ムラ」が生まれます。
弥生時代に稲作が日本に伝来し、稲作が発展して、生産性が高まり、さらに田んぼが増えれば各地に村が増え、その中心となる集落が中村。
そして、新しく出来た村の方角によって、東村、西村、市村、北村、上村、下村といった地名ができあがり、それに連れて姓も起こっていきます。
実は、全国に中村という居住地名は700ヶ所近く、歴史的な地名も200ヶ所を超え、そのほとんどの中村から中村さんは発祥しているのです。
まさに、中村さんのルーツなんて探せそうもない! といった感じなのです。
中村さんが多いのに東村さんが少ないのは、東側に村がなかったわけではなく、発音しづらいという難点があったからあえて東村を名乗らず、単に東を名乗ったり、東出にしたりとアレンジを加えたのだと推測できます(東村さんは全国に4000人ほどで3000位以下です)。
ど真ん中がかっこよく、しかもNAKAMURAが発音しやすかったことで、全国100万人の中村さんへと発展したのです。
大阪に中村さんのルーツが
全国の中村というすべての地名から中村さんの発祥を検証するわけにもいいきませんが、古くは天児屋根命(あめのこやねのみこと=天照大神の岩戸隠れの際に岩戸の前で祝詞を唱えた神様)の後裔・中臣氏族(なかとみうじぞく)に属する中村連(なかむらむらじ/連=ヤマト王権で使われていた姓・かばねの一つで、職業名を負うことが多い)があるので、まずはそこから紹介しましょう。
古名族である中臣氏族の中村連は、大和国忍海郡(おしみぐん)中村郷(現・奈良県葛城市忍海)を発祥とする中村さんがその代表格。
この中村連に関連した神社が、『延喜式神名帳』にも記載の河内国若江郡(大阪府東大阪市菱江)の中村神社です。
現在は仲村神社と称していますが、平安時代に編纂された『延喜式神名帳』にはそのものズバリで、中村神社と記されています。
一帯は古代に中村連氏が住んだ地と推測され、仲村神社は中村連の祖神を祀り「疱瘡の神」として信仰されているのです。
中村連氏族によって氏神として奉斎せられたことに始まるという仲村神社の歴史は1000年を越え、平安時代に編纂された『新撰姓氏録』にも、ここが中村連の先祖であるとしっかり記されているので(「左京神別(天神)中村連 己々都生須比命子天児屋根命之後也」)、まさしく中村さんのパワースポットの代表格といえるでしょう。
秩父市には中村さんの墓が
また、同じ古代氏族では、上毛野国造((かみつけぬのくにのみやつこ)を歴任した上毛野氏族(かみつけぬうじぞく)の中村公(きみ)が陸奥国新田郡(にいたぐん=室町時代に栗原郡に編入、現在の栗原市)仲村郷から起こっている。
ほかに古代発祥の中村さんは、清和源氏、村上源氏、宇多源氏、桓武平氏、藤原氏、橘姓、丹党、小野姓横山党、紀姓、諏訪神家族、荒木田姓、伊伎姓などを始め多岐にわたっています。
このうち、丹党中村氏の発祥地である埼玉県秩父市中村町に出掛けてみましょう。
源頼朝が源氏再興の旗揚げをした時、頼朝勢力の根幹となったのが武蔵七党といわれる関東地方の武士団。
秩父一帯に繁栄を極めた丹党(たんとう)は、秩父地方の神流川流域の児玉地方を本拠地としています。
丹党中村氏と児玉氏は土地の有力者・秩父氏と婚姻関係を結び、武蔵国で勢力を強めていったのです(丹党中村氏は秩父氏を武家の棟梁として認め、忠実な家臣として地域を支配し存続)。
秩父市中村町の天満天神宮の南側には丹党中村氏の墓(秩父市中村町2422番地先1)が現存し、秩父市の史跡となっています(個人所有で、墓地内に中村氏の墓石1基が現存)。
丹党中村一族は熱烈に熊野三山を信仰し、そのせいもあるのか、秩父には熊野信仰が根付いています。
高知県の四万十市の中心部が、「土佐の小京都」中村
中村という地名で有名なのが、高知県にあった土佐中村。
現在は四万十市(しまんとし)になってしまいましたが、「土佐の小京都」と呼ばれたのが中村です。
旧中村市の中心部には四万十川が流れ、土佐くろしお鉄道の中村駅西北の四万十川近くに、土佐中村城(別名・為松城)の城跡が残されています。
応仁の乱を避けた一条教房が、荘園(幡多荘)であった中村に下向し、中村御所を構え(現在の一條神社)、京を模して碁盤目状の町割り、鴨川や東山など京都に見立てた地名、行事を持ち込んだのです。
土佐中村城跡は、為松公園となり、二の丸跡に犬山城を模した「四万十市立郷土資料館」が建っています。
古代には土佐ではなく、波多国造(はたのくにのみやつこ=高知県西部を支配した国造)の本拠だったと推測され、中村は古代から高知県西部の中心となっていたことが明らか。
つまりは多くの中村さんが生まれたと推測できるのです。
残念ながら直接的に中村さんに結びつくスポットはないので、中村にある土佐中村城跡を旅しましょう。
『相馬野馬追』と中村さんの関係は?
次に東北に目を転じれば、福島県相馬市中村に有名な『相馬野馬追』の出陣式が行なわれる相馬中村神社が鎮座しています。
このあたりは、かつての中村城跡で、中村城の城内に建てられた妙見社が現在の相馬中村神社のルーツということに。
南北朝時代の建武4年・延元2年(1337年)には、周辺を配下とした中村朝高がこの地に「中村館」を構え、戦国時代の初めまでは中村氏の居城でした。
永禄6年(1563年)、相馬盛胤(そうまもりたね)の次男・相馬隆胤(そうまたかたね)が中村城に入城し、北の伊達氏と対峙しています。
相馬氏と伊達氏の勢力争いにたびたび巻き込まれた相馬中村氏のルーツは中村城一帯(相馬中村神社、相馬神社の建つあたり)ということに。
中村さんなら勇壮な『相馬野馬追』の際にでも、ぜひ訪れてみたい地となっています。
中村勘三郎は名古屋市中村区がルーツ!
豊臣秀吉、加藤清正の生まれ故郷でもある名古屋市の中心、中村も古代からの地名(尾張国中村)。
中村勘三郎(18代目、平成24年没)は、東京都に生まれていますが、故郷が現在の名古屋市中村区と自ら語っていました。
寛永元年(1624年)、江戸で初の常設芝居小屋「猿若座(中村座)」を開き、江戸歌舞伎の創始者となったのが初代・中村勘三郎。
江戸時代後期に平戸藩主・松浦静山(まつうらせいざん)が記した随筆集『甲子夜話』(かっしやわ)にも「生国 尾州愛智郡中村」と記され、豊臣秀吉の三中老の1人だった中村一氏(なかむらかずうじ)を兄に持つ武士の出だったとも推測されています。
平成22年に大阪城西の丸庭園にて行なわれた『大阪平成中村座』公演の記者会見の席上で、18代目中村勘三郎は、
「大阪城の天守閣が見えるような場所でお芝居をやらせてもらえる、本当にありがたいと思っています。太閤様と初代中村勘三郎は、出身が同じ尾張・中村ですし、以前ドラマで秀吉様を勤めさせて頂いたこともあり、私も父(17代目勘三郎)も太閤様が大好きでした」
と語っているのです。
江戸っ子の中村さんのなかにも、実は尾張国中村がルーツという人も多いのかもしれません。
中村さんのルーツの一つである尾張国中村は、現在の中村公園一帯。
豊臣秀吉生誕の常泉寺、加藤清正の生誕地でもある妙行寺、秀吉を祭神とする豊国神社などがあり、中村公園には「日吉丸となかまたち」の像が配されています(日吉丸は秀吉の幼名)。
18代目中村勘三郎が他界してから5年後には中村公園内に『初代中村勘三郎生誕記念像』が建立されていて、まさしく中村さんのパワースポットに。
歌舞伎俳優で最も多い姓が中村で、次が市川。
『初代中村勘三郎生誕記念像』の銘板にも「中村姓の発祥は生地中村であると中村屋一門にも公認されており」と記され、名古屋と歌舞伎、そして中村さんは切っても切れない関係に。
稲作の発展と村の誕生に結びついた名前で、西日本に多い
中村姓の分布は全国的だが、東日本と比較して近畿地方、九州地方を中心に多く分布。
青森県で5位(1.30%)、富山県で5位(0.81%)、石川県で2位(1.26%)、長野県で5位(1.14%)。
近畿は三重県2位(1.42%)、滋賀県3位(1.29%)、京都府3位(1.06%)、大阪府3位(0.80%)、兵庫県5位(0.76%)、奈良県4位(0.83%)とかなりのウエイトを占めています。
西日本でも山口県3位(1.46%)、福岡県2位(1.16%)、長崎県4位(1.52%)、熊本県2位(1.22%)、鹿児島県でも2位(1.07%)となっています。
全体的な傾向としては、田中さんの多い県は、中村さんも多い傾向で、滋賀県、京都府、大阪府などはその典型。
やはり、稲作の発展との関係が大きいのかもしれません。
家紋は、花菱、立ち沢瀉(おもだか)、丸に橘、釘抜、輪鼓(りゅうご)、菊、梅鉢、二重亀甲、抱き稲、琴柱、桐、源氏車、中村銀杏、中村鷹の羽など。
取材・編集協力/札場靖人(家紋と姓名研究家)
人口に関するデータは明治安田生命全国同姓調査による(2018年7月)推計値です
中村さんのルーツを探せ! | |
掲載の内容は取材時のものです。最新の情報をご確認の上、おでかけ下さい。 |
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