鈴木さんのルーツを探せ!

日本人の姓で、TOPの佐藤さんに次ぐ2位が鈴木さん。全人口の1.44%を占め、全国に182万人もの鈴木さんが暮らしています。鈴木さんの「木」がどんな木なのかと思いきや、実は「すずき」ではなく「すすき」がルーツなんだとか。そして鈴木さんは平安時代に隆盛を極めた熊野詣でにも縁が深い名前です。

全国の鈴木さんのルーツは和歌山県海南市に

「鈴木さんいらっしゃい」の幟もはためく和歌山県海南市の藤白神社

熊野では、昔、稲刈りの後に刈り取った稲を田んぼに積み上げ、それを「穂積(ほづみ)」と呼んでいました(わら塚のこと)。
そして、積み上げた稲の上に1本の棒を立て翌年の豊作を祈るのですが、その棒が「すすき」。
ここに穂積氏流鈴木一族が誕生することに。

鈴木一族の本拠地はもともと熊野・新宮周辺ですが、やがて藤白湊(ふじしろみなと=現在の和歌山県海南市)に移って藤白神社の神官となり、鈴木党を形成、この鈴木党が鈴木姓の中心的存在となり、代々藤白を拠点として、熊野信仰とともに発展していくのです。

──世界遺産の熊野古道の入口、藤白王子にある藤白神社を訪れる人は多く、神社の境内には大理石の大鳥居が立ち、“全国の鈴木さんいらっしゃい”と書かれた幟が風に揺れている。

この藤白王子、熊野信仰では「熊野九十九王子」の中でもとくに格式の高い「五躰王子」の一つで、藤白神社の観音堂には、熊野路唯一の熊野本地仏が祀られています。

藤白神社に隣接する鈴木屋敷はかなり荒廃し、現在復元が計画されていますが、鈴木という表札もかかって、全国に200万人ほどいる鈴木氏の総本家であることを示しています。

藤白神社にある鈴木氏の系図によれば、「イザナギノミコト」からはじまって鈴木重吉(故人)まで122代続いている家系なんだとか。

この、紀伊半島の一つの苗字にすぎなかった鈴木姓が広がったのは、全国各地に3000以上もある熊野神社(神仏集合時代には熊野三所権現)の熊野信仰という山岳宗教によるもの。
神官である鈴木一族が、布教先に住み着いて次々と熊野権現社(熊野神社)を建立したため、鈴木一族は各地に広がっていいたのです。

藤白神社

藤白神社

和歌山県海南市、藤白峠の麓にあり、創建は神話の時代(景行天皇の御代)ともいわれる古社が藤白神社(ふじしろじんじゃ)。社殿は万葉時代に斉明天皇が牟婁の湯(白浜温泉)行幸の際に創建されたと伝わる古社です。拝殿の東側には、全国の鈴木姓のルーツとも

鈴木屋敷にご対面!

鈴木屋敷2015

境内には藤白神社の神官を務めた「藤白鈴木氏」の屋敷跡(鈴木屋敷)も現存、ここが全国2番目に多い姓である鈴木さんのルーツ。

「鈴木家25代・鈴木重秀が住み始めた邸宅で、その後、122代、昭和17年まで鈴木家が住んでいたといわれています」
(藤白神社宮司)とのこと。
現在、鈴木姓ゆかりの人たちが藤白鈴木会を結成し、ルーツの研究を深めています。

キャイ~ンのウド鈴木もメ~テレ(名古屋テレビ)の『ウドちゃんの旅してゴメン』で、鈴木姓のルーツである藤白神社を訪問。
この藤白神社には「鈴木家御守」まであるのだから、鈴木さんなら行かないわけには、いかないでしょう。

藤白王子は熊野古道の玄関口で、「ここから熊野街道」と記された標石も立ってます。
熊野まではあまりにも遠かったので、藤白神社(藤白王子)にお参りし、都に引き返した人々も少なくなかったんだとか。

鈴木屋敷

鈴木屋敷

和歌山県海南市藤白、熊野参詣道(熊野古道)紀伊路の藤白王子跡に建つ藤白神社の境内にあるのが全国の鈴木さんのルーツともいえる鈴木屋敷。熊野信仰を全国に広めた神官の一族である藤代の鈴木氏がかつて居住していた屋敷が現存し、全国から鈴木さんがルーツ

鈴木一族の中でも一番栄えたのが、三河の鈴木さん

その後、源平合戦のとき鈴木重家(すずきしげいえ)・鈴木重清(すずきしげきよ=亀井重清/弓の名手)兄弟は源義経に殉じ、重家は、衣川館で源義経と最期をともにしていますが、出身はやはり紀州・藤白。
鈴木屋敷に滞在した幼少時代の義経と交流があったとされています。

源氏の水軍が優勢を保ったのも、鈴木重家・重清兄弟の尽力により、熊野別当湛増(たんぞう)率いる熊野水軍が平氏方の阿波水軍や松浦水軍などと戦い、活躍したからともいわれています。
兄弟の死後、家督は鈴木重治が継ぎ、代々熊野に居住しています。

鈴木一族の中でも一番栄えたのが、鈴木重善(すずきしげよし/平安時代の武将)を祖とする愛知県東部の三河地方の鈴木氏。
鈴木重善もやはり藤白鈴木氏の一族の出で、鈴木重家・鈴木重清の叔父。
文治5年(1189年)、源義経が奥州に逃げたと聞いて、甥(おい)の重家・重清を追って東国へと向かいますが、三河国の矢作川(やはぎがわ)あたりまで来た時に足を痛め、賀茂郡高橋庄(豊田市高橋町)に逗留していた際に、義経の訃報を耳にして三河に土着したのだとか。

豊田市矢並町向田には鈴木善阿弥屋敷と呼ばれる小高い屋敷跡(個人宅)があり、その一角には善阿弥ゆかりの井戸が残っているとのことですが、個人宅なので残念ながら見学は不可。
ただし、鈴木重善(善阿弥)に関しては南北朝時代の人とする説もあり、定かでありりません。

豊田市竹元町南嶋4には文治4年(1188年)、鈴木善阿弥開基と伝わる鈴木山光恩寺があり、開基以来今日に至る鈴木姓の檀家がいるので、まさに三河鈴木氏のルーツ的な存在。

この鈴木重善を祖とする三河鈴木党は、戦国時代にはこの地域を代表する有力武士団となり、やがて徳川家康に従い、江戸開府のときには旗本、御家人として大挙江戸に移住しています。

実は徳川家康の家臣の中でも目立って多い苗字が「鈴木」で、そのためもあるのか、今でも東京では佐藤さんよりも鈴木さんが多いのかもしれません。
「江戸っ子」を自称する鈴木さんは、案外、先祖は三河ルーツの鈴木さんかもしれません。

熊野信仰とともに、鈴木さんは東国を中心に展開

戦国時代でいえば、織田信長と戦ったことで知られる戦国最大の鉄砲集団・雑賀衆(さいかしゅう)も鈴木一族(雑賀党鈴木氏)で、鈴木孫一(すずきまごいち)は紀ノ川河口を本拠地として活躍しています。
石山合戦では雑賀衆を率いて石山本願寺へ入り、信長軍を苦しめています。
その末裔に関しては定かでありませんが、雑賀に名を改めて水戸藩重臣として続いたともいわれています。

中世以降、遠江(とおとうみ=静岡県西部、浜松周辺)、駿河、伊豆など現在の静岡県にも鈴木氏は発展し、さらに、安房、上総、下総、常陸など海沿いに関東へと進出を果たしています。
現在、静岡県では鈴木さんが4.80%という驚異的な占有率で、小中学校の同級生にも鈴木さんは必ずいるという状況に。

熊野信仰とともに全国に進出した鈴木さんですが、東日本は佐藤さん(1.98%)を抑えて鈴木さん(2.00%)がトップ。
とくに関東地方では1位の鈴木さんは1.95%、2位の佐藤さんは1.62%と少し差がついています。
中部地方も同様に鈴木さんが1.98%で2位の伊藤さん1.34%を抑えて圧倒。

鈴木さんが1位という県は、静岡県を筆頭に、茨城県、千葉県、愛知県、栃木県、神奈川県、埼玉県、東京都です。
関東地方では群馬県(高橋さんがTOP)を除いて、鈴木さんが首位で、まさに鈴木さん王国。
ルーツの和歌山県ではTOPは山本さんで、BEST5にも入らないことから、熊野信仰の流布とともに中部、さらには東国へと広がったのだと推測できます。

鈴木氏の代表家紋は、祖の穂積氏に因んだ稲紋で、稲穂を束ねて丸型にした抱き稲や稲の丸が基本。

ほかに、熊野神社の使である烏(鈴木孫一の幕紋は三本足の烏であったという)や、神木の梛(なぎ)、藤白の下り藤、蔦、鷹の羽、三本杉、そして神具の一つである鈴など。

取材・編集協力/札場靖人(家紋と姓名研究家)

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