白馬岳「代掻き馬」の雪形

白馬岳「代掻き馬」(代馬)の雪形

北アルプスの名峰・白馬岳(しろうまだけ/2932.5m)。標高こそ3000mに満たないものの、冬場の厳しい気候などを反映して白馬大雪渓などの雪渓が多く、アルピニスト憧れの山のひとつに。その白馬岳の「白馬」という名の由来になったのが、山頂の横に、苗代づくりの季節に現れる雪形の「代掻き馬」(代馬=しろうま)です。

白馬岳山頂の右下に注目!

白馬岳山頂の右下、三国境の真下を探そう!

例年GW明けの5月上旬〜下旬頃、北アルプス、白馬三山(南から鑓ヶ岳=2903.2m、杓子岳=2812m、白馬岳=2932.3m)の一番右側、白馬岳と小蓮華山(2766m)の間に、一番大きくて見つけやすい雪形「代掻き馬」が現れます。
長野(信州)・富山(越中)、新潟(越後)の県境にあたる三国境(2751m)あたりを眺めると、そこに雪が解けて岩肌が黒く見える馬の形が現れます。

白馬じゃなくて黒馬ですが、これが苗代をつくるときの農作業に使われる代掻き馬に似ており、この代掻き馬が現れると、苗代(田んぼに植える稲の苗を育てる場所)作業のため田に水を張る準備に取り掛かったのです。
豪雪の春には雪解けも遅いため、水温む前に水を張らないように、気候に合わせて農作業を進めるための貴重な指針になっていたのです。

この「代掻き馬」には、面白いエピソードが残されています。
明治維新を迎え近代的な国家経営の手段として、地図は不可欠のものと認識されたことから、関東周辺を手始めに、全国を網羅する20万分の1地図が製作されました。
そのために明治21年陸地測量部が設置されます。

明治21年〜明治23年にかけて、農商務省地質調査所で「長野」「上田」「甲府」「富山」を制作していますが、白馬岳の山頂に陸地測量部館潔彦(たてきよひこ)技官らによって一等三角点が設置されるのは明治26年のこと。

これが代掻き馬


白馬村の古老の話では、明治の初め、まだ北アルプス北部の山々には正確な山の名がなかったのだとか。
「あの山の名はなんですか?」
「西山だべ」
「じゃあ、あの山は?」
「あれも西山です」
という押し問答が続いたのだとか。

実は北安曇郡ではアルプスの高山を「西山」、東に連なる低山を「東山」と呼び習わし、とくに個別の山の名は決まっていなかったというのです。
ウォルター・ウエストンが白馬岳に初登頂したのも明治27年7月22日のこと。
記録に残る白馬初登頂は明治16年のことなので、明治初期には正確な山の名がなかったのかもしれません。

そこで、地元の人が、「代掻き馬の山」、あるいは「代馬」(しろうま)と呼んだ山を代馬岳(しろうまだけ)、山頂に武田菱の家紋のような雪形が現れる山に御菱岳(ごりょうだけ)、種まき爺さんができるのが爺ヶ岳(じいがたけ)と名付けていったというのです。

後に代馬岳は白馬岳と、御菱岳は五竜岳(ごりゅうだけ)と誤記され、さらに白馬岳は、白馬岳(はくばだけ)と通称されるようになったため、昭和31年に北城村(ほくじょうむら)、神城村(かみしろむら)が合併した際に、白馬村(しろうまむら)ならぬ、白馬村(はくばむら)が誕生したのです。
さらに大糸線の信濃四ツ谷駅は、昭和43年10月1日に白馬駅(はくばえき)と改称。
今では、「代掻き馬」すら忘れ去られつつある、昔語りになってしまいました。

余談ですが、白馬の古老たちの話では、この「代掻き馬」の雪形は、メスの馬なんだとか。
なぜなら、雪解けとともに腹が膨らんでいく様子が、妊娠した雌馬にそっくりだから。

白馬村の松川に架かる白馬大橋などは「代掻き馬」を眺める一等地です。

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