神仏習合の日光山の歴史からすれば、日光二社一寺の筆頭ともいえるのが日光山輪王寺。3代将軍・徳川家光の霊廟として、家光没後の慶安4年、遺命により造営されたのが大猷院(たいゆういん)です。ちなみに、「大猷院」は徳川家光が死後、後光明天皇から賜った諡号(しごう=おくり名)です。
「日光山の秘奥」と呼ばれる聖なる地
慶安4年4月20日(1651年6月8日)、徳川家光は臨終に際して、「死後も魂は日光山中に鎮まり東照公のお側近くに侍り仕えまつらん」と遺言し、48歳の若さで将軍職のまま江戸城で没しています。
徳川家光の遺骸は、江戸から4日間をかけて日光へと運ばれ、天海大僧正眠る慈眼堂隣の大黒山に埋葬されました。
慶安4年8月18日(1651年10月2日)、将軍宣下を受けた4代将軍・徳川家綱(とくがわいえつな)は、父・家光の遺言に従い、承応元年2月16日、大黒山に霊廟(大猷院)の建築を着手。
家綱は11歳という若さだったため、叔父の会津藩主・保科正之(ほしなまさゆき)、大老・酒井忠勝(さかいただかつ)、老中・松平信綱(まつだいらのぶつな)、老中・阿部忠秋(あべただあき)、酒井忠清(さかいただきよ)ら「寛永の遺老」といわれる生前に家光によって取り立てられた幕閣たちが主導して、建設を進めました(大猷院の要所に、「寛永の遺老」が奉納した銅燈籠が残されています)。
徳川家光の霊廟である大猷院は、家康の眠る日光東照社(現・日光東照宮)の北東(鬼門)を守護するような大黒山に、わずか1年2ヶ月という突貫工事で、承応2年4月4日(1653年5月1日)に完成しています。
起伏ある地形を活かし、人界から天上界へと階段で上るような伽藍配置で、堂宇も東照宮の絢爛豪華さとは対照的に幽玄な雰囲気を醸し出しています。
日光東照宮に比べると訪れる人は少ないのですが、「日光山の秘奥」と呼ばれる大猷院こそ、江戸時代(神仏習合時代)の日光山を今に伝える聖地となっているのです。
明暦元年(1655年)、朝鮮通信使も参詣
往時には当然、庶民は参詣できる場所ではなく、10万石以下の大名も二天門までという厳しいしきたりがありました。
入口の仁王門から二天門、 夜叉門を経て最後の皇嘉門(奥院)まで大小6つの門をくぐる参道は徐々に天上界へと昇る厳かな気分を感じさせてくれます。
徳川家光の遺言を守ったため、日光東照宮より地味な造りにはなっていますが、目立たない部分の装飾など高い評価を受け(江戸時代初期を代表する建築物群)、世界文化遺産「日光の社寺」の構成資産になっています。
国宝の大猷院廟は拝殿、相の間、本殿がつながる東照宮と同様の権現造で、拝殿の天井や、家光の木像が安置されている本殿の金箔漆塗りの豪華な装飾など、大猷院参詣のハイライトになっています。
本殿の「御宮殿」(国宝)内には家光の御尊像が奉安され、歴代将軍は拝殿に着座し、参詣したのです。
現在では、この将軍着座の場に座り、解説を聞くことができます。
参道などには諸大名が奉納した312基の灯籠(石灯籠・銅灯籠)があるほか、境内には世界文化遺産に登録の国宝1棟、重要文化財21棟があります。
朝鮮国王の使者・朝鮮通信使は、江戸時代に12回派遣されていますが、当初は、日朝の国交回復に尽力した徳川家康眠る日光山にも足を伸ばしています(当初、朝鮮国側は日光参詣を拒否していましたが、徳川家光の強い要請で日光遊覧というかたちで実現)。
第六回の明暦元年(1655年)も、徳川幕府の強い要請で、東照大権現(徳川家康)を祀る東照宮を参拝した後、東照宮造営に尽くした徳川家光を祀る大猷院霊廟に国王親筆の額字と銅灯籠一対、楽器十種などの進物を供えて参詣、朝鮮式祭儀を行なっています。
日光山輪王寺所蔵の巻子「朝鮮国王孝宗親筆額字」(朝鮮通信使の日光参詣の様子がうかがえる貴重な資料)は、ユネスコの世界記憶遺産「朝鮮通信使に関する記録」のひとつ。
朝鮮国王孝宗の自筆で、「霊山法界崇孝浄院」(縦47cm、総長3m49cm)と墨書されていますが、「霊山法界」は日光を、「崇孝浄院」は家光をまつる大猷院を示すとされ、明暦元年(1655年)の朝鮮通信使が奉納したもの。
取材協力/日光山輪王寺
日光山輪王寺大猷院 | |
名称 | 日光山輪王寺大猷院/にっこうさんりんのうじたいゆういん |
所在地 | 栃木県日光市山内2300 |
関連HP | 日光山輪王寺公式ホームページ |
電車・バスで | JR日光駅・東武日光駅から世界遺産めぐり循環バスで13分、大猷院二荒山神社前下車 |
ドライブで | 日光宇都宮道路日光ICから約4km |
駐車場 | 100台/有料 |
問い合わせ | 日光山輪王寺大猷院 TEL:0288-53-1567 |
掲載の内容は取材時のものです。最新の情報をご確認の上、おでかけ下さい。 |
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