西行庵

西行庵

吉野山・奧千本の地主神、金峯神社から山道を15分ほど歩けば、西行庵。桜(当時は山桜)を愛した漂泊の歌人・西行は、「吉野山去年(こぞ)の枝折(しをり)の道かへて まだ見ぬかたの花を尋ねん」(『新古今集』春上86)など、吉野の歌を数多く残しています。西行の結んだ庵の後が、芭蕉も訪れたという西行庵です。

西行が庵を結び、3年ほど暮らした地

西行庵

11世紀になると、吉野山に籠もる上皇や貴族たちによる御嶽精進が行なわれていますが、西行も吉野山に籠もったと推測できます。
具体的な歌を残しているのも吉野に庵を構え3年ほど隠棲した証でしょうか。
庵のある奥千本一帯も、往時から金峯山寺に参詣する人々が植えた山桜の名所になっています。

松尾芭蕉も、西行庵を目指して、二度も吉野山に入っています。
一度目が貞享元年(1684年)秋の『野ざらし紀行』の旅で、二度目が貞享4年(1687年)の春の『笈の小文』の旅。
『野ざらし紀行』は、41歳になった芭蕉が、このままでは、自分の生涯が、ただの俳諧という道の宗匠(そうしょう=師匠) で終わってしまうのではという危惧を抱き、漂泊の歌人として名高い西行の修行の地に足を運んだもの。
「西上人の草の庵の跡は、奥の院より右の方二町計分け入ほど、柴人の通ふ道のみわづかに有て、嶮しき谷を隔てたる、いとたふとし。」
奥の院と記されているのは、神仏習合時代の金峯山寺奥の院。
現在の金峯神社のこと。
金峯山寺奥の院(金峯神社)から大峰山の道を二町ばかり歩けば西行庵というのは、今も芭蕉の歩いた時代とさほど変わりがありません。

『笈の小文』では、貞享4年(1687年)10月25日に江戸を出立しますが、吉野山の西行庵に到達する時は貞享5年(1688年)3月22日。
山桜に包まれる吉野を目指したのですが、旧暦3月22日では桜は散った後でした。

西行が吉野を読んだ句 『山家集』・『新古今和歌集』・『聞書集』

吉野山 こずゑの花を 見し日より 心は身にも そはずなりにき (『山家集』66)
あくがるる 心はさても やまざくら 散りなんのちや 身にかへるべき (『山家集』67)
花見れば そのいはれとは なけれども 心のうちぞ 苦しかりける (『山家集』68)
花に染む 心のいかで 残りけん 捨て果ててきと 思ふわが身に (『山家集』76)
いかで我 この世のほかの 思ひいでに 風をいとはで 花をながめむ (『山家集』108)
憂き世には 留め置かじと 春風の 散らすは花を 惜しむなりけり (『山家集』117)
もろともに われをも具して 散りね花 憂き世をいとふ 心ある身ぞ (『山家集』118)
思へただ 花の散りなん 木のもとに 何をかげにて わが身住みなん (『山家集』119)
いかでかは 散らであれとも 思ふべき しばしと慕ふ 歎き知れ花 (『山家集』123)
木のもとの 花に今宵は 埋もれて あかぬ梢を 思ひあかさん (『山家集』124)
木のもとに 旅寝をすれば 吉野山 花のふすまを 着する春風 (『山家集』125)
雪と見えて 風に桜の 乱るれば 花の笠きる 春の夜の月 (『山家集』126)
散る花を 惜しむ心や とどまりて また来ん春の たねになるべき (『山家集』127)
春風の 花を散らすと 見る夢は さめても胸の さわぐなりけり (『山家集』139)
かれいづる 心は身にも かなはねば いかなりとても いかにかはせむ (『山家集』912)
なにとなく 春になりぬと 聞く日より 心にかかる み吉野の山 (『山家集』1062)
吉野山 花の散りにし このもとに とめし心は われを待つらむ (『山家集』1453)

吉野山 桜が枝に 雪散りて 花遅げなる 年にもあるかな (『新古今和歌集』79)
吉野山 こぞのしをりの 道かへて まだ見ぬかたの 花をたづねむ (『新古今和歌集』86)
世の中を 思へばなべて 散る花の 我が身をさても いずちかもせむ(『新古今和歌集』1470)

霞しく 吉野の里に すむ人は 峰の花にや 心かくらむ (『聞書集』130)
春ごとの 花に心を なぐさめて 六十(むそじ)あまりの 年を経にける (『聞書集』132)

 

西行庵
名称 西行庵/さいぎょうあん
所在地 奈良県吉野郡吉野町吉野山
関連HP 吉野山町公式ホームページ
電車・バスで 近鉄吉野駅からタクシーで30分で金峯神社。金峯神社から徒歩15分
ドライブで 西名阪自動車道郡山ICから約43kmで駐車場。駐車場から徒歩30分
駐車場 義経隠れ塔下林道横(20台/無料)を利用
問い合わせ 吉野山町産業観光課 TEL:0746-32-3081/FAX:0746-32-8855
掲載の内容は取材時のものです、最新の情報をご確認の上、おでかけ下さい。

取材協力/吉野山観光協会、太鼓判花夢花夢

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