日本人の姓で、佐藤さん、鈴木さんに次ぐ、第3位の大姓が、高橋姓。全国に143万人の高橋さんが暮らし、国民の1.14%が高橋さん。この3つは、「不動の御三家」で、北海道・東北地方などでは2位を占めています。実は、この高橋さん、タカハシには「神の降臨を願う」という意味があるのをご存知でしょうか?
高橋さんなら、一度は奈良市八条町の高橋神社に参拝を!
高橋姓は、そのものズバリの高い橋のほかに、神の降臨を願うタカハシの意味もあります。
天と地を結ぶ階(柱)、聖なる目印という意味合いです。
中央に高い柱を立てて神の降臨を願う柱です。
鎮座した神を一柱・二柱と数えるのもこの柱に由来し、人間世界と神の世界を橋渡しする柱の意で、タカハシ、つまりは高柱、高橋ということに。
「神の降臨を願う」、「神を招く」タカハシという苗字はたいへん古く、大きく分けて2つの系統を有しています
ひとつが、古代に朝廷の食膳を管掌した膳氏(かしわでうじ)で、天武天皇13年(684年)、朝臣(あそみ)姓を賜った際、高橋と改称しています。
律令制が始まっても内膳奉膳(内膳司の長官)を世襲し、「御食つ国」(天皇の食料を献上する国)の志摩国の国司になったりしています。
万葉歌人の高橋虫麻呂(たかはしのむしまろ)が有名です。
もう一つは、大和国添上郡高橋(現・奈良市八条町)に起こる物部氏流高橋氏で、高橋神社(奈良県奈良市八条5-338)の神官の一族。
この氏族は崇神天皇に酒を奉げて神事を行なった子孫といわれています。
現在日本第3位となる全国の高橋さんのほとんどは、この奈良市八条町がルーツと推測されます。
奈良県だけでも40もの高橋という地名があり、まさに神様関連の地、さすがにわが国最大の地名姓だけのことはあるのです。
現在ではその名が消失してしまっていますが、かつての大和国添上郡は、現在の奈良市の大部分と、大和郡山市や天理市、山添村の一部に相当する広大な地域で、37座の神社が集まる神々の杜(もり)でした。
その聖なる地に高橋姓最大の発祥地・高橋神社が鎮座しています。
佐保川の堤防を走って行くと、堤に高橋神社の小さな赤い鳥居が見え、思ったよりも小さな春日造の社殿が出迎えてくれます。
社殿は、永禄年間(1558年~1569年)、大和一国を統一した松永弾正(まつながだんじょう=松永久秀)の兵乱により焼失したりと、たびたびの兵火に襲われ、かつてはこの地より北100mほどに鎮座していたと推測されています。
祭神は磐鹿六鴈命(いわかむつかりのみこと)、栲幡千々姫命(たくはたちぢひめのみこと)で、ともに高橋さんの氏神。
料理の始祖神として料理関係者からも崇められていますが、高橋さんにとっては、氏神を祀る、ルーツ中のルーツ、膳氏から高橋氏への改姓も、この高橋の地が関係しているのだと推測される、パワースポット。
高橋さんなら一度は訪ねてみたい場所なのです。
旧社殿地からは、なんと神鏡が3面発見され、今の高橋神社の神宝にもなっています。
鳥居横に、「高橋神社」と刻んだ文化13年(1816年)の石碑が立ち、遠く、高円山や大安寺の鎮守の杜・八幡神社を望見。
毎年5月には宮司が古式の包丁さばきを披露する『庖刀式』が斎行されていますが、食の技術向上、全国の高橋さんの発展を願う神事とのこと。
瀬戸内海の暴れん坊・藤原純友は実は高橋姓だった!
ここで、日本で最大の地名姓・高橋さんに関連する、全国主要な高橋という地名から出た様々な高橋さんを見てみましょう。
安芸(現在の広島県)の紀氏高橋氏。
石見藤掛城(現在の邑智郡邑南町木須田)の高橋氏、戦国時代、高橋興光(たかはしおきみつ)の代に毛利元就(もうりもとなり)との争いで滅亡。
戦国時代に活躍した筑後の高橋氏は大蔵氏(おおくらうじ)の子孫で御原郡(みはらぐん=現在の福岡県三井郡大刀洗町下高橋)の発祥。
陸奥の高橋氏は三戸郡高橋郷の発祥(現在の青森県三戸郡南部町高橋)。
注目の高橋さんのルーツが、伊予の高橋氏で、越智郡高橋の発祥(現在の愛媛県今治市高橋)。
伊予の国府は平安時代中期の辞書『和名類聚抄』(わみょうるいじゅしょう)に「国府越智郡在」と記されるように越智郡にあったことがわかっています。
『和名類聚抄』によれば、当時の越智郡には朝倉郷・高市郷・桜井郷・新屋郷・拝志郷・給理郷・高橋郷・日吉郷・立花郷・鴨部郷の10郷がありました。
古代の伊予の中心、つまりは国府の場所は特定されていませんが、下胡遺跡(今治市上徳)あたりにあったのではないかと推測されています。
瀬戸内海で反乱を起こしたことで歴史に名を残す藤原純友(ふじわらのすみとも)も、もともとは伊予の国司。
伊予国司となった藤原純友は、海賊討伐を命ぜられていたのですが、任期後も伊予国にとどまって日振島(ひぶりしま/愛媛県宇和島市)を拠点とし、承平6年(936年)、海賊や農民、浮浪者を率いて挙兵。
藤原純友率いる約1000艘の船と2500人の海賊は、瀬戸内海の周辺、備前、摂津、讃岐、備後、太宰府などを襲撃したのです。
これが有名な「藤原純友の乱」。
その藤原純友、『大津純友大乱記』(天和元年成立/大津は大洲のこと)によると、越智氏の一族で今治の高橋郷出身・高橋友久の子で藤原良範の養子となったともいわれています。
13歳の時、京・七条の御殿で手洗水石を力持ちして、伊予前司・藤原良範に見込まれて養子となったのだという説があるのです。
純友は貢物を納入することができず、弟の市野知島(伊予の日振を所領)に無理に頼んで日振の浦で海賊を、というのが海賊の始まり。
この話、なかなか説得力があり、ひょっとすると藤原純友ゆかりの高橋郷は、大切な高橋さんのルーツなのかもしれません。
この高橋郷には平安時代編纂の『延喜式神名帳』に記載の大須伎神社もあるので、高橋さんならここに参拝を。
東海の高橋さんなら豊田市高橋町へ!
三河の高橋さんのルーツは、賀茂郡高橋郷(現在の愛知県豊田市高橋町)。
奈良時代の平城京で見つかった瓦や木簡に出でいる賀茂郡高橋郷。
今では企業城下町となった豊田市でも、伊保、挙母、高橋という名前は古代からの由緒ある地名なのです。
平安時代までの複合遺跡である高橋遺跡があるほか、白鳳時代の古瓦を出土する牛寺廃寺(野見町)や、平安時代編纂の『延喜式神名帳』に「正五位下野見天神」と記された野見神社(愛知県豊田市野見山町4-21)のある野見山町も高橋郷の一部。
実は平安末期~戦国時代には高橋荘という大荘園だったのです。
明治39年には寺部村・益富村・野見村・渋川村・上野山村・市木村・平井村の7ヶ村と元山中を除く四谷村が合併して高橋村が成立。
野見宿禰(のみのすくね)を祭神とする野見神社、東海地方でも有数の弥生時代の大規模集落である高橋遺跡は、東海地方の高橋さんなら一度は訪れたいパワースポットなのです。
伊豆の雲見温泉も高橋さんのルーツのひとつ
伊豆の高橋さんは、賀茂郡雲見(現在の静岡県賀茂郡松崎町雲見=雲見上の山城)がルーツ。
伊豆・雲見(静岡県松崎町雲見)には今も高橋さんが多いのですが、雲見温泉を見下ろす中世の山城・上の山城(うえのやまじょう)の城主が高橋丹波守(たんばのかみ)。
伊豆海賊11人衆のひとりとして雲見村をなし戸数7戸、人口45名の寒村を基盤として、独自の働きで自主的な生き方を貫いていました。
もともとは筑後国出身で大蔵姓高橋氏の当主だったといわれますが、定かでありません。
北条早雲(ほうじょうそううん)が伊豆を制圧すると、北条氏に従属し、その水軍となり高橋将監(たかはししょうがん)と称して活躍。
天正17年(1589年)には小田原城主・北条氏政(ほうじょううじまさ)、韮山城主北条氏規(ほうじょううじつね)、下田城主・清水康英(しみずやすひで)らに鯨1頭を上納したという記録も残されています。
駿河湾に突き出した標高162mの烏帽子山があり、駿河湾を一望する恰好の物見台。頂上には、浅間神社があり、高橋氏は代々同社の神主をも務めています。
北条氏に従った高橋家と、その譜代家臣は豊臣秀吉の小田原攻めでほとんどが戦死しています。
松崎町の雲見温泉で、毎年10月の第2日曜に開催される『雲見温泉海賊料理まつり』は、戦国時代に雲見の高橋氏が北条氏に船や鯨を献上したという故事に因んだもの。
鯨に見立てた120kgもあるカジキマグロの献上儀式が行なわれ、献上されたカジキマグロは客の前で豪快に解体され、刺身として振る舞われています。
ルーツを旅する高橋さんならぜひ参加したい祭りとなっています。
静岡県三島市にも高橋さんゆかりの高橋神社が
奈良の高橋神社は少々遠いので訪れにくいとおっしゃる方は、静岡県三島市の高橋神社(三島市松本298)へぜひどうぞ。
こちらも天武天皇から高橋姓を賜った子孫が祖神を祀ったのが始まりという、奈良と同じような伝承を有しています。
全国で高橋さんがTOPの県は群馬県だけ
高橋さんの代表家紋は竹に雀、切り竹に笹などの竹笹紋で、竹は神が降臨する神木なのでいかにも高橋さんに似つかわしい家紋です。
また、三つ柏などの柏紋もありますが、柏は古代の食器でもあり、こちらも高橋氏の職種をよく表しています。
他に、笠、鷹の羽、剣菱、杏葉(ぎょうよう)、花菱、三つ鱗など。
東日本に多いという高橋さんですが、県別に見るとトップを占めるのは、群馬県だけ。
なぜ群馬県に高橋さんが多いのかは定かでありません。
東北には高橋さんが多く、秋田県、宮城県では2位、岩手県、山形県で3位、そのほか北海道と、愛媛県で2位となっています。
取材・編集協力/札場靖人(家紋と姓名研究家)
高橋さんのルーツを探せ! | |
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