全国に104万人(国民の0.83%)のお仲間がいて、大姓8位となる小林さん。西日本よりも東日本に多い名前となっています。田中さんを筆頭に、日本の苗字の8割以上は地名から来る地形姓(地名姓)。では、なぜ大林姓より小林姓が多いのだろうか? 集落周辺に小さな林が多かったのが理由かもしれません。
小林さんのルーツは長野県
田中さん、中村など、田んぼとともに発展した田園地帯起因の地形姓は西日本に多いのですが、少し森、山岳をイメージする小林さんは長野県を中心に東日本に多い名前。
ただし、大川さんよりも小川さんが多いし、大山さんより小山さんが多いことを考えても、身近には大きなものよりも小さな林、川、山が多かったに違いありません(あるいは日本人は、大より小を選ぶ奥ゆかしい民族なのかも)。
小林さんのルーツを探ると、そばの旨い信州(長野県)にたどりつきます。
長野県は小林さんのルーツのひとつですが、全国の小林さんは長野を中心として分布しているといっても過言ではないのです。
雄大な自然に取り巻かれている長野県で一番多い苗字は小林姓で、長野県の小林さんは、伊那郡小林村(現・飯田市下久堅小林地区)を発祥とし、諏訪氏の同族として各地に広まっていったのです。
信州を代表する小林さんは、俳人・小林一茶
この長野県の小林姓で一番有名な人物は、江戸時代の俳人・小林一茶(こばやしいっさ)でしょう。
一茶は、宝暦13年5月5日(1763年6月15日)、北信濃、北国街道(ほっこくかいどう)・柏原宿(現・信濃町)の農家に生まれ、本名は小林弥太郎(こばやしやたろう)。
柏原宿のやや北よりに、菩提寺・明専寺(みょうせんじ)があり、宿場の南よりにある一茶が最晩年をすごした焼け残りの土蔵が、「国史跡小林一茶旧宅」です。
そのほか柏原宿には、諏訪神社、俳諧寺 、一茶の母の家跡などが残されていて、今も小林さんの集中地域となっているのです。
柏原一帯は、信玄と謙信の勢力争いに巻き込まれて荒廃した時期もあり、江戸時代の復興、新田開発時に一茶の祖先もこの地に移り住んだのだと推測できます。
この柏原は中村家が庄屋で、小林一茶の祖先が移住した際には、中村さんだらけだったはず。
群馬県に高山氏一族の小林さんのルーツが
信濃国と並んで有名な小林さんのルーツは、上野国(こうずけのくに/上州=現在の群馬県)。
上野国の小林氏は桓武平氏の出で、緑野郡(みどのぐん/後の多野郡)高山御厨(たかやまみくり)小林(現・藤岡市小林)には、高山氏一族で、鎌倉末期から上野国大塚郷の地頭職だった小林氏居館跡があります。
緑野郡小林村は明治22年の町村制で藤岡町と合併し、藤岡町小林に。
昭和29年に藤岡市となっていて、小林という地名は、国道254号沿いに大字として存続しています。
藤岡コンクリート工業の北側が小林館の跡地ですが、ここを訪れても私有地で見るべきものはありません。
旧下仁田街道が小林地区を通っているので、往時は街道沿いで賑わった村だったのだと推測できます。
また、これとは別に藤岡市中大塚の中大塚城跡も中世高山氏から分家した小林氏の城館であったことが推測されています。
土塁跡、壕跡などが確認でき、中世の城館の面影を残しています。
千葉県印西市にも小林さんのルーツが
上総国長柄郡小林(千葉県印西市小林)を発祥とする桓武平氏伊勢氏流の小林さんも。
JR成田線小林駅近くに、県道によって真っ二つに分断された小林城跡がありますが、築城者など詳しいことはわかっていないのが残念。
利根川を見下ろす下総台地の先端にあり、下総国と常陸国の境界を守る重要な地だったと推測できます。
県道工事に当たっての発掘調査では、中世の土器や陶磁器、石製品などのたくさんの遺物が出土しています。
また印西市小林には東京都競馬が管理する大井競馬小林牧場もあり、春には桜が見事です。
鎌倉・鶴岡八幡宮一帯は旧・小林郷で小林さんゆかりの地
相模国鎌倉郡小林郷を発祥とする三浦氏流の小林さんのルーツは、現在の鎌倉市に。
鎌倉郡小林郷は、現在の鎌倉市の中心、鶴岡八幡宮周辺。
治承4年(1180年)、源頼朝は八幡宮(鶴岡若宮・由比若宮)を由比郷鶴岡から小林郷へと移しているのです。
関東エリアの小林さんなら、一度は鶴岡八幡宮に参拝を。
実は一帯は小林さんの重要なパワースポットなのです。
名古屋の小林さんは清浄寺へ!
尾張国愛知郡前津小林、現在の名古屋市の御器所(ごきそ)周辺となります。
名古屋市中区大須4丁目ある清浄寺(矢場地蔵)は牧氏が築いた小林城の城跡で、築城は、天文17年(1548年)。
一帯は中世まで伊勢湾が入り込み、「まへの津」という湊のあった場所。
上前津、下前津という地名はこの湊に由来しています。
戦国時代に前津村と小林村が統合され前津小林村と称するようになっていますが、小林城を築いた牧長清(まきながきよ=富士山に三度も登頂)は織田信長の妹(おとくの方=小林殿)を妻にしており、桶狭間の戦いでも活躍しています。
名古屋周辺の小林さんならぜひ足をのばしてもらいたい場所で、近くには名古屋名物味噌カツで有名な矢場とんの矢場町本店もあります。
小林さんの代表的な家紋は揚羽蝶
宮崎県の小林市も重要な小林姓の発祥地ではと考える人もいます。
なにしろ市の名前が小林ですし、JR吉都線の駅名にも小林駅も、そして伊東氏と島津氏の激戦があった小林城跡も残されています。
かつて小林城跡付近は、小林原(こべしばる)と呼ばれていたとか。
小林市に住む小林さんを調べてみるとその数の少ないこと。
小林さんは地名由来姓といいながら、どうやら小林姓の発祥地とはあまり関係がなさそうな小林市なのです。
小林さんがTOPの県は、長野県がダントツの1位で3.20%、長野県2位の田中さん(1.22%)を圧倒しています。
群馬県は2位(1.63%)、山梨県2位(2.32%)、茨城県3位(1.07%)、新潟県3位(2.27%)と、どう考えても長野県から群馬へ、山梨へ、新潟へと広がっていったことがわかるような分布となっています。
小林さんの家紋は出自が多流なために種類も多いのが特長ですが、上野や上総、相模の小林さんは桓武平氏の代表紋とされる揚羽蝶(あげはちょう)が多数。
そのほか、抱茗荷(だきみょうが)、輪違い、蔦、横木瓜(もっこう)、九曜、三階松、花輪違い、剣片喰(けんかたばみ)、二引両、剣梅鉢、五三桐など。
取材・編集協力/札場靖人(家紋と姓名研究家)
人口に関するデータは明治安田生命全国同姓調査による(2018年7月)推計値です
小林さんのルーツを探せ! | |
掲載の内容は取材時のものです。最新の情報をご確認の上、おでかけ下さい。 |
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