前田さんのルーツを探せ!

大姓34位の前田さんは、「田んぼ」仲間の岡田さんと同じで、全国に38万人ほどが暮らし、シェアは国民の0.30%ほど。田んぼの前の方の土地という地形姓で、奥側の奥田さん、横の方の横田さん、さらには上田さん、内田さんとはまさしくご近所でライバルかも。地形姓ゆえにルーツも全国に。

加賀百万石・金沢は前田さんの「梅鉢紋」だらけ!

尾山神社(金沢市)
尾山神社(金沢市)

犀川と浅野川に挟まれた「加賀百万石」の金沢は、かつての城下町の姿をそのまま今に伝えています。

代々の藩主である前田氏が愛した名勝兼六園、前田家代々の墓が並ぶ野田山、藩祖・前田利家(まえだとしいえ)を祀る尾山神社(おやまじんじゃ/「梅鉢紋」)、第2代藩主・前田利常(まえだとしつね)の正室・珠姫を祀る天徳院(「梅鉢紋」)、前田家ゆかりの美術工芸品が展示される「成巽閣」(せいそんかく)、菅原道真などを祀る金沢神社(「梅鉢紋」)、徳川家康を祀る尾崎神社(「葵紋」)、寺の門に「梅鉢」を記す妙立寺など、金沢では、前田氏と梅鉢紋にすっぽりと包まれている点にも注目を。
家紋でいえば、まさに前田さんの街なのです。

前田利家とまつを祀る尾山神社。
NHKの大河ドラマでいえば『利家とまつ』ゆかりの地。
尾山神社は、2代藩主で、藩祖・前田利家の四男・前田利長の創建ですが、幕府の目を気にして当初は守護神としていた物部八幡宮と榊葉神明宮を遷座する名目で、卯辰山麓に社殿を建立しているのも100万石といえども外様大名ならではの配慮から。

前田さんならこの尾山神社はぜひ参拝したい社のひとつなので、北陸新幹線に乗って出かけてみましょう。

尾山神社

尾山神社(おやまじんじゃ)は、加賀藩租の前田利家を祀る神社。拝殿は、入母屋造りで正面に千鳥破風を付け、向拝に唐破風を取り付けたかたち。また、神泉回遊式の神苑は、小堀遠州作といわれ、琴橋や琵琶島が配された風雅な庭園。国の重要文化財の神門は、四

金沢城

金沢城

加賀百万石のシンボル、金沢城は、加賀藩主・前田家の居城。天正11年(1583年)、前田利家により本格的な築城が開始されました。天明8年(1788年)築の石川門、安政5年(1858年)に再建された三十間長屋は、そして鶴丸倉庫は国の重要文化財。

加賀百万石・前田家のルーツは名古屋

前田利家
前田利家は尾張国出身

そんな加賀百万石・前田家ですが、城下町・金沢を築いていますが、出自、ルーツは金沢ではありません。
そのルーツを古代まで遡ってみましょう。

古代氏族には、文徳天皇(9世紀)の頃、筑前国前座郡(福岡県朝倉市)に前田臣(まえだおみ)がいて、さらに摂津国西須磨(現在の兵庫県神戸市)からは橘姓の前田氏が出ています。

加賀前田家は菅原道真の後裔(こうえい)ともいわれていますが、実は前田家が菅原氏の後裔をを称するようになったのは江戸時代初期で、それまでは平氏やら源氏を称したりしているので、あくまで後付ということに。

加賀前田家のルーツには2説あり、ひとつが尾張国海東(かいとう)郡前田説、もうひとつが美濃国安八(あんぱち)郡前田説(岐阜県安八郡神戸町前田)です。

残念ながら安八郡神戸町には前田家ゆかりの史跡がまるでなく、仮に美濃から尾張に出てきたとしても裏付ける史料がありません。

前田利家の父・前田利春(前田利昌とも)は尾張の荒子(あらこ)城主(前田家には前田利春以前の史料がまるで残されていません)。
名古屋市中村区の荒子城は加賀藩祖と出世した前田利家の生誕地とされていますが前田城生誕との説もありこれも定かではありません。

尾張国海東郡前田(名古屋市中川区前田西町)の前田速念寺は前田城址といわれ、山門横と境内奥に碑が立っています。

その近くの名古屋市中川区荒子町には前出の荒子城跡があり「前田利家卿誕生之遺址」の碑が立っていて、さらに、あおなみ線・荒子駅前にも「前田利家公初陣之像」が建立され、一帯はまさしく前田さんのルーツらしい雰囲気に。

三英傑(織田信長、豊臣秀吉、徳川家康)の影に隠れて名古屋市民にあまり人気のない前田利家ですが、荒子周辺ではさすがに出身の地だけあって人気があるようです。
史跡からたどれば、やはり尾張国(現在の名古屋市中村区と中川区)が加賀前田家の重要なルーツと考えていいでしょう。

荒子城跡

荒子城

尾張国海東郡荒子村(現・愛知県名古屋市中川区荒子)に天文年間(1532年~1555年)に前田利春(前田利昌)が築城、その長男である利久、四男・利家、利家の長男・利長が相次いで居城した城の跡が荒子城跡(あらこじょうせき)。城跡は冨士大権現天満

前田速念寺(前田城址)

前田速念寺(前田城址)

前田速念寺は、庄内川沿いの尾張国海東郡前田村(現・愛知県名古屋市中川区前田西町)にある寺で前田城址。2代当主の前田長定は織田信長に仕え、速念寺の寺伝では前田利家はこの地で誕生している。通説では荒子城が生誕地ですが、利家の出生時に荒子城があっ

前が田んぼで前田姓が生まれた

前田利家は織田信長に従って活躍、豊臣政権においては五大老に列し、五大老筆頭の徳川家康に次ぐ地位を得て加賀国を与えられています。
前田利家の後は長男の前田利長が継ぎ、徳川方についた関ヶ原合戦の後は、加賀・能登・越中3国119万石の大々名として北陸に君臨、一族でこの3国を幕末まで支配しています。

ちなみに越中富山藩主・前田正甫(まえだまさとし)は江戸城内で腹痛を起こした三春藩主・秋田輝季(あきたてるすえ)を持薬の「反魂丹」(はんごんたん)で治し、以来富山の薬は全国に名が知られることになったのだとか。
家紋は菅原道真の後裔ということで梅鉢紋ですが、それぞれの藩の梅鉢は芯の形や剣の長さが微妙に異なっています。

一方、戦国時代織田氏に仕え、豊臣秀吉の五奉行の一人でもあった前田玄以(まえだげんい/美濃国の出)は藤原北家利仁流の前田氏とされ(加賀前田家とは別流)、丹波亀山5万石を領しています(家紋は橘)。

ほか前田氏としては、讃岐国山田郡前田(高松市前田西町)を発祥とする十河氏の支流の前田氏、出羽大曲城(秋田県大仙市大曲)の小野寺氏支流の前田氏、薩摩国満家院前田(鹿児島市川田町前田)を発祥とする前田氏、大隈国東郷(鹿児島県薩摩川内市東郷町)を発祥とする桓武平氏の前田氏、藤原北家押小路(おしこうじ)流の前田氏などがいて、西日本各地で生まれていることがわかります。

前の田んぼという地形由来の姓であるため、ルーツは全国に散らばることに。
しかも鹿児島県には前田という地名が結構あり、それが鹿児島県の前田さんのルーツだとも推測できます。
古代に稲作は西日本を中心に行なわれていたので、西日本に多いのが田中さんに代表される「田の付く」名前の共通点です。

また、滋賀県蒲生郡安土町の安土城址に伝・前田利家邸跡が、愛知県海部郡七宝町に前田利家の妻まつ(芳春院)の生家といわれる林氏日開常信(にっかいつねのぶ)家の屋敷跡があります。
さらに、京都市北区紫野大徳寺町の大徳寺芳春院は、芳春院が建立した前田家の菩提寺で、本堂の芳春院の木像をはじめ、前田家歴代の御霊牌が祀られています。
東大の赤門は、加賀藩前田家上屋敷の屋敷門であったことで有名。

前田さんは、鹿児島県で大躍進の4位(0.67%)、鳥取県5位(1.03%)、和歌山県6位、熊本県8位、兵庫県9位、長崎県10位。
東北と北関東には少ない。

代表家紋は梅鉢紋(梅鉢・剣梅鉢・星梅鉢)。
ほかに、三階松、唐花、橘、剣六つ丁子、五七桐など。

取材・編集協力/札場靖人(家紋と姓名研究家)
人口に関するデータは明治安田生命全国同姓調査による(2018年7月)推計値です

前田さんのルーツを探せ!
掲載の内容は取材時のものです。最新の情報をご確認の上、おでかけ下さい。

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