佐藤さんのルーツを探せ!

日本人の姓のなかでもっとも人口が多いのが佐藤姓で、全国に184万2000人の佐藤さんが暮らしています。東北大高齢経済社会研究センターによれば、現行の夫婦同姓制度を続けると、500年後に日本人全員が佐藤さんになるだろうとも推測されています。佐藤さんが全国になぜたくさんいるのか? そのルーツを探ります。

佐藤さんのルーツの筆頭は、藤原秀郷

唐澤山神社
佐藤さんなら、まずは唐澤山神社に参拝を

日本で最も多い佐藤さんの全人口における割合は、2023年は1.53%ほど。
そんな佐藤さんのルーツは、平安時代中期、下野掾(しもつけのじよう)だったという藤原秀郷(ふじわらひでさと)に遡ります。

藤原北家の流れをくむ藤原秀郷は、東国の暴れん坊・平将門の乱を鎮圧した後、下野国(しもつけのくに=現在の栃木県)と武蔵国の国司兼鎮守府将軍に任ぜられています。

その後、秀郷から6代目の左衛門尉藤原公清(さえもんのじょうふじわらきみきよ/左衛門尉=律令制下の官職で左衛門府の判官)のとき、藤原の藤と左衛門尉の左を取って「佐藤」と名乗ったとも、下野佐野から佐藤といったともいわれていますが、いずれにしろここに初めて佐藤姓が誕生したわけです。
佐野の藤原ということなら、まさに栃木県佐野市こそが全国の佐藤さんということになるのですが、左衛門尉からという可能性も捨てきれません。

佐野厄除け大師で有名な栃木県佐野市、JR両毛線・東武佐野線の佐野駅北東に聳える唐沢山は、まずは佐藤さんなら必踏の地。

かつて唐沢城の本丸があったその山頂には、古い歴史を伝える唐澤山神社が鎮座しています。
祭神は、「俵藤太(たわらのとうだ)のムカデ退治」として有名な近江の三上山(みかみやま)に棲む大ムカデを退治した藤原秀郷、つまりは佐藤さんのルーツです。

藤原秀郷は、延長5年(927年)、下野国の治安を維持する押領使(おうりょうし/押領=引率するの意)に任じられ唐沢山に城を築いていますが、それが現在の唐澤山神社。
平将門の追討で功を上げ下野守になり、その後、子孫が代々城主となっているのだから、まさに佐藤さんゆかりの地ということになります。

唐沢山城
戦国時代には上杉謙信を退けたという唐沢山城

唐沢山城

栃木県佐野市、佐野市街地の北にそびえる唐沢山(241m)の山頂の本丸を構え、一帯に曲輪が配された連郭式山城で、「関東一の山城」と称される城が唐沢山城。国の史跡に指定されるほか、「続日本100名城」にも選定されています。また関東七名城のひとつ

もうひとつのルーツは、佐藤継信・忠信兄弟で、飯坂温泉に!

やがて、藤原秀郷流の佐藤一族は相模、伊豆、常陸、美濃、甲斐、尾張、伊勢などに広がり、とくに奥州藤原氏に属した佐藤氏が目覚しい発展を遂げています。

平安時代末期の治承4年(1180年)、源義経が源頼朝のもとに馳せ参じた時、藤原秀衡は、一族で家臣の佐藤継信(さとうつぐのぶ)、佐藤忠信(さとうただのぶ)兄弟を義経に随行させています。

以来兄弟は『源平盛衰記』における「源義経の四天王」として活躍していますが、兄の佐藤継信は屋島の合戦で源義経の身代わりとなって壮烈な最期を遂げ、弟の佐藤忠信も京・中御門東洞院に潜伏中に襲われ自刃しています(鎌倉時代の歴史書『吾妻鏡』)。

奥州の佐藤氏の根拠地である陸奥国信夫郡(しのぶぐん)大鳥城は、現在の福島市飯坂温泉で、温泉街の外れに佐藤一族の菩提寺である医王寺が建っています。

佐藤継信・佐藤忠信の石塔は「粉にして飲むと体が強くなる」といういい伝えがあるため、薬として利用され、石塔の半ばほどが大きく削り取られているのが印象的。
寺紋は佐藤氏の家紋・源氏車です。

この佐藤氏の子孫は、伊達政宗に仕えているので、宮城県や東北がルーツという佐藤さんは、この源平合戦で義経の元で活躍した佐藤兄弟なのかもしれません。

佐藤さんの東北のルーツは医王寺
佐藤さんの東北のルーツは医王寺には松尾芭蕉も参詣

また、このあたりの佐藤姓の人は、みんな佐藤兄弟の子孫だと称しているらしいが、その真偽はともかく、佐藤姓は圧倒的に東北地方に多いのも事実です。
北海道・東北地方では佐藤さんはなんと4.75%を占めてダントツ。
とくに山形県7.25%、秋田県7.15%、宮城県6.24%、福島県5.51%、岩手県5.42%と驚異的な占有率を誇っています。

そんな佐藤さんも、関東地方では鈴木さんに負けて2位の1.62%、中部地方では鈴木さん、伊藤さん、加藤さん、渡辺さんにも負けて5位の1.15%です。

NHK大河ドラマ『光る君へ』を見ていてもずらりと藤原姓が並んで混乱してしまいますが、平安時代にも同様に藤原さんだらけではまずかったため、藤原を止めて西園寺を名乗る人も出てきたのです(佐藤さんだけでなく、加藤さん、伊藤さんの藤も藤原由来です)。
しかし、藤原の一族の栄華もあって、「藤」だけは残そうということで佐藤姓は誕生。

東北に多い佐藤さんですが、西日本には比較的少ないのが大きな特徴。
名古屋、大阪ではでも伊藤さんや加藤さんはいても、日本一の姓である佐藤さんは意外に少ないのです。
近畿地方ではTOP10にも入りません。
そんななかで、新潟県(3.16%)、徳島県(1.03%)、大分県(3.27%)では佐藤さんが元気で、ナンバーワンの姓となっています。

その他、越後小千谷(おぢや)の藤原流佐藤氏、美濃に旗本の伊深佐藤氏があり、意外に知られていませんが歌人の西行法師も魚名流藤原氏の流れで、紀伊の佐藤氏の出(生誕地は、紀伊国田仲荘=現・紀の川市とも)。
佐藤義清(さとうのりきよ)が本名です。

家紋は源氏車と下り藤、上り藤、藤巴。ほかに三本傘、柏、菱、橘、山桜、水車など。
ちなみに、『源氏物語』の御所車を別名源氏車といい、源氏車の紋はこの車輪をかたどっています。

取材・編集協力/札場靖人(家紋と姓名研究家)

新形三十六怪撰「藤原秀郷龍宮城蜈蚣射るの図」
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